萩原健一没後1年を機に学ぶショーケン流「カッコ悪いカッコよさ」<ザテレビジョンシネマ部>
2019年3月26日、不世出のスター、“ショーケン”こと萩原健一がこの世を去ってから、はや1年。
1967年、グループサウンズ全盛期にザ・テンプターズのボーカリストとして世に出た萩原は、バンド解散後、やがて演技の世界に足を踏み入れる。元々俳優ではなく監督志望だったため、助監督として就く予定だった映画『約束(1972)』で、たまたま主演俳優が降板したのが、(ザ・テンプターズの萩原健一ではなく、俳優、萩原健一としての)デビューのキッカケだった。
この初主演作が高い評価を得て、TVドラマ「太陽にほえろ!」(1972~1986)のマカロニ刑事役に抜擢され、代表作となった伝説のTVドラマ「傷だらけの天使」(1974~1975)出演へと導いていく。
そんな経緯から、作り手側としての意識が高かった萩原は、ただ台本を読んで監督の指示通りに役を「演じる」ことを嫌う男だった。自身が役そのものを「生きる」ために、即興を含め、より能動的に提案をし、その役が言いそうにないと思えばセリフも改変する。
画面に映るのは、役でもあり、萩原健一そのものでもある、というところまでシンクロ率を高めていく。ミュージシャンらしい直感的スタイルだが、その結果、生まれる圧倒的なリアリティーは、観る者をくぎ付けにし、特に同世代の若者の熱狂的支持を獲得していった(若き日の松田優作が彼に心酔していたのも有名な話だ)。
野心に溺れ破滅していく大学生を演じた『青春の蹉跌(1974)』(3月22日[日]夜10:45 WOWOWシネマ)では、神代辰巳監督の下、萩原の自由な即興芝居に食らいつくように、カメラがその姿を追い掛ける。
飲みに行こうとせがむ恋人役の桃井かおりが萩原の腕を取って歩く場面では、桃井に袖口だけを引っ張らせることで、びよーんと伸び切った袖を見せ、気の乗らない様を表現する。
気持ちが離れていくと、キスする場面でごまかすように桃井の鼻をパクッとかじる。目が覚めるほど斬新でみずみずしい演技で、キネマ旬報の最優秀主演男優賞を受賞したのも納得だ。
折しも当時は、1970年の日米安保条約延長により、学生を中心とした反体制運動が急速にしぼみ、無力感にさいなまれた若者たちは「しらけ世代」と呼ばれていた。海の向こうアメリカでも、若者の挫折を描くニューシネマが台頭し、『俺たちに明日はない(1967)』や『真夜中のカーボーイ(1969)』など、時代のはざまでもがき、ボロきれのように死んでいく「カッコ悪いヒーロー」が輝きを増していた。
『青春の蹉跌』の主人公も、学生運動を諦め、若くして人生に敗北する。あっけなくも鮮烈な印象を残すラスト・シーンは、ショーケンなりの「カッコ悪いカッコよさ」を体現した名演だ。