戸田恵梨香、“表面的な美しさ”にこだわらず“命の強さ”表現「スカーレット」で開花した非凡な才能
自分を信じて、もくもくと生きている人間の姿を
「スカーレット」に主演が決まったことが公表されたとき、戸田恵梨香は「大恋愛〜僕を忘れる君と」(TBS系、2018年)で若年性アルツハイマーの役をやって、じょじょに記憶が薄れていくにつれ透明感を増すような儚い演技でたくさんの注目を浴びた。
とても華奢なからだをしていることもあって、脆さを感じさせる役が似合う。
だが、「スカーレット」では病気になるのは息子であって、戸田恵梨香は病気の息子を助けていく強い役を担った。土をこね、薪を積み上げ、徹夜で穴窯の火を見るというようなたくましさが必要な役である。元夫・八郎(松下洸平)にも歯に衣着せずものを言う。
こんな喜美子の原型は、戸田恵梨香のブレイクポイントとなった「SPEC」シリーズ(TBS系、2010年〜)の主人公・当麻紗綾に私は見る。
天才的な頭脳を持ち、数々の難事件を解決していく当麻は、じつはSPECという特殊能力の持ち主で、世界を滅亡させようとする禍々しい力を最終的に自分の中に取り込むことで防ぐという偉業を果たす。
戸田恵梨香は当麻紗綾を演じるにあたり、ほぼノーメイクで挑んだ。言動はがさつ。でもほんとうは優しい。どんなに悲しいことがあってもモクモクとご飯を食べ闘いに備える。
特殊能力を使用するシーンの撮影で、酸素吸入器を傍らに置いて絶叫している戸田の姿を見たことのある私は、彼女が追い詰められるほどに力を無限に発揮する役者だと感じていた。
追い詰められ破壊的なエネルギーを発揮し、真っ白に燃え尽きるのは、あしたのジョー。でも戸田恵梨香は燃え尽きない。生き続ける。透明になり、周囲をその光で照らす。彼女の演技の背後に、天地創造のような荘厳な世界を見ることができる。
しかもその尊さが、「SPEC」のような奇想天外なSF作品ではなく、朝ドラというホームドラマで、ごくふつうの生活者のなかにも確かに息づいていることを戸田恵梨香は示してくれた。
朝起きて、ご飯をつくって食べて、仕事をして、家族や仲間と語らう。そんな日々の営みが世界に明かりを灯すのだ。日本のあちこちで、自分を信じてもくもくと生きている人間の姿を「スカーレット」で演じきった戸田恵梨香にありがとうと言いたい。(文・木俣冬)