<消臭力ソングの秘密>ユニークだけじゃない「心に届ける、人に寄り添う」エステーのCM
東日本大震災で想いを強くした「寄り添う」気持ち
――鹿毛さんのマーケティング論である「寄り添う」ということ。これを考えるようになったきっかけから教えてください。
鹿毛:「寄り添う」は元々僕のモットーですが、その想いを強くしたのは2011年、東日本大震災のときです。あのとき、東北の皆さんは特にそうですが、「頑張ろう、頑張ろう」と、懸命に自分を奮い立たせようとしていたじゃないですか。覚えている方も多いと思いますが、「消臭力」のCM、最初は西川貴教さんではなく、ポルトガル人の少年、ミゲル・ゲレイロくんが出演していました。
――覚えています。ミゲルくんがただただ美声を披露するCMに、「なんだよこれ」とツッコんでしまいました。
鹿毛:あれは震災後初めて流したエステーのCMで、最初はこういうCMを作っていいものか、ずいぶん悩みました。不謹慎だと言われるんじゃないかって、正直怖い部分もありました。でもね、Twitterを見ていたら「頑張ろう」という中に、「あのバカバカしいエステーのCMがまた見られるようになったらいいよね」って、そういうコメントがぽつぽつあったんです。みんな口には出さないけど、人として笑いたいんだな、ということに気付いたんです。
被災地のトイレが臭いとか、においでご飯が食べられないとかもあって、それって何もおかしい話じゃない。人として、とても文化的な話なんですよね。だったら、そこにちゃんとボールを投げよう。笑ってもらったほうが楽しいじゃん、消臭剤を使ってもらったらいいじゃん、って。だから、堂々と「消臭力」のCMを出しました。震災のとき、企業のCMはどんどんACジャパンに差し替わっていったけど、あれってよくないですよね。笑うことがダメみたいじゃないですか。
――今のコロナ禍の状況に似ていますね。自粛という言葉でいろんなものをふさいで、心が沈んでいくような。
鹿毛:企業側が不謹慎だと自粛するか、視聴者側が不謹慎だと怒るのか。どちらもボールの投げ方次第なんです。よくエステーのCMには商品説明が入っていないと言われますが、「生活の中の~」というテーマはちゃんと入っているんです。商品を売る、買ってもらうではなく、あなたの生活、あなたの心にこれはどうですかと、人に寄り添いさえすれば、震災が起ころうが、コロナが起ころうが、ボールは投げていい。むしろ投げていかないと。