「クリエイターズ・ファイル」#62 ベストセラー作家・阿久津しのぶ
推理サスペンスミステリーを書くのは久しぶり
――別荘の縁側で、阿久津氏が現在執筆中の小説について語り始めた。もちろん、手にはウイスキーグラスが握られている。
阿久津「今回は難航していますよ。推理サスペンスミステリーを書くのは久しぶりですよ。着想を得たのは、僕の十代の頃のアルバイト経験。うちは貧乏だったでしょう。それで、学生の頃に金沢の『ポニー煉瓦』という洋食屋で働いていてね。そこの賄いでよく出されていたのが、卵がふわふわで、トロトロしたオムライス。ある時、主人公と一緒に働いていたアルバイトがそのオムライスのレシピを持って逃げてしまう。当然、店長も作り方なんて分からなくなってしまうでしょう。店長はレシピを取り返すために怒りの旅に出掛けていくんだけど、殺されてしまう。その殺され方が妙におかしくて、不可解でね」
――最後に、昨今言われている活字離れについても意見を伺ってみた。
阿久津「活字離れ活字離れと耳にするけど、活字は本の中以外にもたくさんあるでしょう。外に出てしまえば、看板、掲示板、標識、石碑……いろいろな活字に溢れているよ。本なんか読まなくたって、人間なんてものは活字に触れているんですよ。活字だけをぎゅっと詰め込んだ本こそ、読めという感じが押し付けがましいよね。なんて、本を書いている人間が言うことじゃないかもしれないけど」
そう言って阿久津氏はいたずらっぽく笑った。知的で時には悪ガキのような表情を浮かべる。まさに男の余裕を感じさせるそんな時間を共有できたのかもしれない。
スタイリスト=古沢愛/ヘア&メーク=伊藤有香/デザイン=hooop/編集=CTB
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