斎藤工、“平成”は「前半はインプット、後半にようやくアウトプットできた時代」<映画「糸」連載その5>
僕は映画作りと料理は似ている
――ちなみに、そのメニューとは?
今、めちゃくちゃ作っているのは薬膳カレー。僕は全て目分量なので、いつも同じ味を再現することはできないんですけど(笑)、薬膳は体の免疫も上げてくれますからね。
あと、「糸」の舞台としても登場するシンガポールのソウルフードでもあるバクテー(肉骨茶)は豚肉の煮込み料理で、意外と作り方も簡単なんですよ。理想としてはポークリブを使いたいところですが、なければ豚バラ肉でも大丈夫。そこにニンニクを丸ごと入れて、ホワイトペッパー、ブラックペッパーを粒のまま入れで煮込むだけ。お店で出されているバクテーはまた違うのかもしれませんが、僕はそこに根菜類を入れて、これも薬膳スープのようにして作るようにしています。
――とても簡単とは思えません(笑)。料理へのこだわりも相当なものですね。
僕は映画作りと料理は似ていると思っていて、自分の言語化できない感情をシェアする手段という意味では近いものがあると思います。
ちなみに、このバクテーを教えてくれたのは、松田聖子さんと共演させていただいたシンガポール・仏・日合作の映画「家族のレシピ」で出会ったエリック・クー監督でした。劇中にもバクテーが登場するんですが、映画の撮影最終日、彼が自分でスープを作ってきてくれたんです。それは鶏肉を使ったものだったので、正確にはバクテーではなかったのですが、僕にとってはそれも“運命”を感じたできごとでした。
――では、最後に、「糸」は人生の中のターニングポイントがいくつも描かれた作品でしたが、ご自身のターニングポイントを教えてください。
それもエリック・クー監督ですね。彼はシンガポールを代表する世界的なフィルムメーカーなのですが、「家族のレシピ」の撮影中に僕が監督もしていることを知ってくれて。それでエリックが誘ってくれたことによって、アジアの6つの国の監督が参加するHBOアジア制作の「FOLKLORE(フォークロア)」(Amazon Prime Video チャンネル「スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-」で配信中)という作品に監督として参加させていただくことができました。自分が作品を作る上で海外マーケットに目を向けるようになったのも、エリックとの出会いが大きかったと思います。
さいとう・たくみ=1981年8月22日生まれ、A型。ドラマ「BG~身辺警護人~」(テレビ朝日系)や主演作「8日で死んだ怪獣の12日の物語-劇場版-」が公開中。8月8日より公開中の映画「もったいないキッチン」ではアンバサダー・ナレーション・日本語吹替え版キャストを務めている。また、8月28日(金)よりAmazon Prime Videoにて独占配信されるオムニバス映画「緊急事態宣言」の「孤独な19時」に主演
取材・文=馬場英美