<西野亮廣>ゴミ人間〜『えんとつ町のプペル』誕生の背景と込めた想い〜「映画『えんとつ町のプペル』の製作総指揮を務める覚悟」【短期集中連載/第10回】
余談ですが、劇中に、煙突掃除屋の少年「ルビッチ」が、ゴミ人間「プペル」に、「僕と友達になってください」と言うシーンがあるんですね。友達の始め方としては下手すぎるじゃないですか? でも、これ、実際にあった話なんです。
僕が日本中から叩かれて、まだまだ一人だった頃です。夜、幻冬舎の舘野さんから「今、西野に会いたがっている男と呑んでいるんだよ」と連絡がありました。「日本中から叩かれている男に会いたがっている男って、どんな人だろう?」と思い、飛んで行きました。
店に着くと、ラーメンズの小林賢太郎さんがいました。彼は、「はじめまして」よりも先に、「僕と友達になってください」と言ったのです。聞けば、日本中から叩かれながら一人で踏ん張っている僕を、陰ながらずっと応援してくださっていたそうです。「ああ、この人も、僕と同じように一人になっちゃったことがあるんだな」と思いました。
だって、友達の始め方が、あまりにも下手すぎるじゃないですか(笑)。だけど、その下手さに小林さんの誠実さが表れていて、僕らの距離は、すぐに縮まりました。
そこから散々飲み明かして解散して、帰り道。「近所で、芸人がオールナイトライブをやっている」という情報を聞きつけます。どちらから連絡したのか忘れましたが、「さっきはありがとう。そんなことよりも、今から行っちゃう?」と話は盛り上がり、再合流。ベロベロの状態でオールナイトライブに乗り込んで、挙句、ステージ上でブルーハーツの『リンダリンダ』を熱唱。絵に描いたような酔っ払いです。
その夜を、ルビッチとプペルの出会いのシーンに重ねています。弱い者同士で励まし合い、慰め合ったあの夜が、とても良かったんです。
脚本一つとってもこの調子です。つまり、『えんとつ町のプペル』はクリエイティブの根幹となる部分の答えを僕が持っているので、「あとは、よろしく!」みたいなことはできません。今日は今日で音楽スタッフさんと日がな一日「あ〜でもない」「こ〜でもない」と音楽制作の最終作業。根性っス。
製作総指揮を背負う
絵本『えんとつ町のプペル』がヒットして、映画化の話が出始めた頃、テレビ東京の『ゴッドタン』に出させていただきました。肛門周りを重点的にイジられるサイコ番組です。終始、肛門に指を突っ込まれたり、肛門に鼻に突っ込まれたりするのですが、何故このような恐怖映像を地上波で流せているのかは誰にもわかりません。機会があれば、是非ご覧ください。そんな肛門番組のセットチェンジの合間に、出演者の劇団ひとりサンと映画『えんとつ町のプペル』の話になりました。
「プペルの映画化、すごいね。西野はどの形でタッチするの」「まだ決まっていないのですが、脚本を書くことに専念しようと思います」。劇団ひとりサンからの質問に対して、「餅は餅屋」と返す僕。そこまでおかしな判断じゃないと思ったのですが、劇団ひとりサンは少し厳しい顔で言います。
「お前、絶対に後悔するぞ」
収録の帰り道、その言葉がずっとグルグルと頭の中を回ります。デザインの「デ」の字も知らない社長がデザインした「誰も要らない商品」。エンターテイメントと集客のイロハを知らない地元議員が張り切って仕掛ける「絶対に面白くなさそうなイベント」。…これまで、「餅は餅屋」と割り切ることができない素人が起こしてきた事故現場を何度も何度も見てきたので、「一世一代の大勝負である映画『えんとつ町のプペル』でその事故を起こしてなるものか」と思っていました。
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PROFILE●1980年、兵庫県生まれ。芸人・絵本作家。1999年、梶原雄太と「キングコング」を結成。2001年に深夜番組『はねるのトびら』のレギュラー出演決定と同時に東京進出を果たす。2005年に「テレビ番組出演をメインにしたタレント活動」に疑問を持ち、「自分の生きる場所」を模索。2009年に『Dr.インクの星空キネマ』で絵本作家デビュー。2016年、完全分業制による第4作絵本『えんとつ町のプペル』を刊行し、累計発行部数50万部を超えるベストセラーに。2020年12月公開予定の『映画 えんとつ町のプペル』では脚本・制作総指揮を務める。現在、有料会員制コミュニティー(オンラインサロン)『西野亮廣エンタメ研究所』を主宰。会員数は7万人を突破し、国内最大となっている。芸能活動の枠を越え、さまざまなビジネス、表現活動を展開中。
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