<西野亮廣>ゴミ人間〜『えんとつ町のプペル』誕生の背景と込めた想い〜「映画『えんとつ町のプペル』の製作総指揮を務める覚悟」【短期集中連載/第10回】
でも、よくよく考えてみればお笑い始めたときも僕は素人だったし、絵本を描き始めたときも素人でした。その中で、もがき、勉強し、毎晩眠い目をこすって、「そんなやり方はダメだ」と同業者から叩かれて…それでも、結果を出してきました。
いつも始まりは素人だったんです。
「ヘタクソなことぐらいわかっている。それでも何とかする」という挑戦を繰り返し、その姿勢を応援していただき、ここまでやって来ました。なのに、どうして映画になると「素人なのでここはプロに任せます」と僕は言っているのでしょうか?
そもそも『えんとつ町のプペル』を、お前以外に誰が書けるんだ。お前の物語だろ。大きな夢を語って、日本中から迫害されたお前の物語だろ。それをお前が語らなくてどうするんだ。
自問自答を繰り返し、覚悟が決まります。「ここで大人になって逃げてしまったら、僕は一生後悔する」。我慢たまらず、すぐに吉本興業と今回のアニメーションを制作してくださっているスタジオ4℃さんに連絡。「僕に全部やらせてください」という話をさせていただきました。
映画『えんとつ町のプペル』の製作総指揮が僕に決まった瞬間です。
仕事は山積みです。各セクションのクリエイターさんから信頼されることも僕の仕事です。誰よりも映画『えんとつ町のプペル』と向き合って、徹底的に予習をして、どんな意地悪な質問が来ても返せる体を作り込みます。さらには、何度も飲みに行って想いを語り、たくさん頭を下げる。クリエイティブ部分で納得がいかないことがあれば遠慮なく、言う。ただし、言葉は選んで。それでも言いすぎてしまったら、キチンと謝る。どれだけ意見が衝突しようとも、崩れない信頼関係を築いておく。
スタッフが眠った後は、アトリエに籠り、映画『えんとつ町のプペル』を一人でも多くの人に届ける作業に着手。この連載も、その一つ。朝までに二仕事ほど終わらせておいて、リーダーの覚悟を形として見せ、チームをまとめる。
2020年に入ってからは、眠れない日がずっと続いています。映画『えんとつ町のプペル』は、もうとっくに、多くの方からの期待を背負っています。100年に一度のウイルスに襲われて、世界中が涙した年の最後に、とびっきりの奇跡を待っている人がいます。「あんまり無理をしないで」とも言われますが、ここで無理をしなかったら、どこで無理をするんだ。あと少し。もう少しだけ頑張ります。
毎晩、震えています。「お客さんが、映画館に来てくれなかったらどうしよう」と不安にならない夜はありません。そして、その不安は、どれだけ努力しても消えることはありません。
「ずいぶんな場所に首を突っ込んじゃったなぁ」と思います。だけど、あそこで「やります」と手を挙げて良かったと思っています。あそこで手を挙げなければ、劇団ひとりさんの言うとおり、僕は絶対に後悔していました。手を挙げたことによって、期待と同じ量だけの恐怖や、どれだけやっても拭えない不安と引き換えに「納得のいく作品」を残すことができます。それが全てです。「僕が面白いと思っているのは、コレです」と胸を張って言えることが全て。それができれば、あとは何も要りません。
あまり偉そうなことは言えませんが、もしもこの先、貴方に「手を挙げるチャンス」がやって来たならば、今回の話を思い出して欲しい。現時点で自分が能力的に劣っていることを認めて、「その上でチーム全員の人生を巻き込んで結果を出せる」と言うのであれば、その時は勇気を振り絞って絶対に手を挙げてください。そして、自分が選んだ道を正解にしてください。
終わることのない孤独と恐怖と絶望が副作用のように付いてきますが、生きのびていることを実感できて、悪くないですよ。
頑張って。
(第11回は11月2日[月]更新予定)
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PROFILE●1980年、兵庫県生まれ。芸人・絵本作家。1999年、梶原雄太と「キングコング」を結成。2001年に深夜番組『はねるのトびら』のレギュラー出演決定と同時に東京進出を果たす。2005年に「テレビ番組出演をメインにしたタレント活動」に疑問を持ち、「自分の生きる場所」を模索。2009年に『Dr.インクの星空キネマ』で絵本作家デビュー。2016年、完全分業制による第4作絵本『えんとつ町のプペル』を刊行し、累計発行部数50万部を超えるベストセラーに。2020年12月公開予定の『映画 えんとつ町のプペル』では脚本・制作総指揮を務める。現在、有料会員制コミュニティー(オンラインサロン)『西野亮廣エンタメ研究所』を主宰。会員数は7万人を突破し、国内最大となっている。芸能活動の枠を越え、さまざまなビジネス、表現活動を展開中。
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