“66歳のゾウ”に密着した感動番組が映画化&公開へ
テレビ大阪が製作し、12月12日(土)よりシネ・リーブル池袋ほかで公開される映画「天王寺おばあちゃんゾウ 春子 最後の夏」の試写会がテレビ東京で行われた。
本作は国内2番目の高齢アジアゾウ・春子が'14年7月30日に推定66歳で息を引き取るまでの日々を描くドキュメンタリー。
春子は戦争の爪痕がいまだ残る'50年にタイから大阪・天王寺動物園に来園し、以来64年間大阪の人々に愛されてきた同園の看板ゾウ。
テレビ大阪では'13年より春子の密着取材を開始し、同年9月に「天王寺おばあちゃんゾウ春子の夏日記」を、'14年夏に春子の最期を記録した「天王寺おばあちゃんゾウ 春子最後の夏」を放送した。
「第52回ギャラクシー賞 奨励賞」「第56回 科学技術映像賞 自然・くらし部門 優秀賞」「第12回 世界自然・野生生物映像祭 日本野生生物賞」「第59回 関西写真記者協会 報道展テレビ・ニュース映画の部 企画部門 金賞」など多数の表彰と反響により番組を映画化するに至った。
150時間に及ぶ貴重な映像を99分にギュッと凝縮し、春子を取り巻く人々の思いを詰め込んだ本作品。
試写会に出席した人見剛史監督は「日本にいるゾウの多くが海外から来て、いろんなストーリーを持っています。そしてゾウは長生きする動物なので、死に立ち会うことは、飼育員でもなかなかないことだそうです。小さい頃に動物園で見たゾウがまだ生きている。この映画を見て、子供の頃を思い出してみるのもいいと思います」とあいさつ。
春子の地元・大阪では11月21日より映画が公開され、上映期間延長も決定したことを受け、大阪の反響について「自分の周りの人間やペットの死と重ねたり、人の延命措置の在り方を考えたり、動物園や春子との思い出を振り返るなど受け止め方はさまざまですね」と語った。
また、「個人的には、動物園の人気者もいつまでもいるわけではなく、限られた命であり、命の尊さを訴えたいと思っていますが、いろんなことを感じてもらえればと」と思いを明かした。
撮影を担当した増田健カメラマンは映画公開に向けて「春子が倒れた日は、撮影しながら泣きました…ピントが分からないぐらい泣きました。大阪で生まれ育った私が子供の頃から親しみ、66年間生きた春子さんの最期に立ち会え撮影できたことはカメラマン人生として大変貴重な経験になりました」とコメントを寄せている。
人間の年齢に換算すると90歳を超えるおばあちゃんゾウの春子。
警戒心が強く賢いことから、飼育員をランク付けし、その相手によって対応を変えたり、「ご飯をくれなくてもいいから、これだけは絶対嫌だ」と主張してみたり、同じゾウ舎のラニー博子と仲が悪かったり、人間のような行動をとる光景には驚かされる。
飼育員から「春さん、仕事やで」「きょうもよろしくな、春さん」「春さん、よう頑張ったな、お疲れさん」と声を掛けられると、言葉を理解し返事をするようなシーンは愛らしく、見ている側が笑顔になってしまう。
命日となった'14年7月30日も、尻を壁につけてもたれながらも四つ足で立ち続けた春子。運動場には出られなくても、自分を見に来てくれたお客様にぶざまな姿を見せられないというプロ根性を感じた。
ゾウは長時間横になると自分の体重で肺を圧迫してしまうため、立たせなければならない。春子が倒れると、飼育員たちがクレーンを使って起こそうとし、春子もなんとか立とうと足をバタバタと動かしてみるが踏ん張りが効かない。
苦しそうな春子を前に「もっと生きてほしい」と「苦しまずに天国に行かせてあげたい」との間で葛藤する飼育員の姿に、試写室のあちこちですすり泣きの音が。
飼育員も個性豊かで、息を引き取った春子に「最後につらい思いをさせてすまんかった」と声を掛ける男性もいれば、カメラから背を向けてそっと涙を流す人、寝床をきれいに掃除する人、そっとバナナを供える人と、行動は違えど春子への愛情の深さがうかがい知れる。
さらに、不仲だったラニー博子が、春子の不在を認めたくないのか、生前はしなかった春子の寝室へのフンの投げ込みをしているのも悲しみを誘う。
命の尊さ、飼育員という仕事、子供からお年寄りまでが拠り所にする動物園、大阪の人々が愛した人気者、さまざまな視点から一頭のゾウの生き方が描かれている。
寒さが厳しさを増す季節に、ほっこりとした映画に心を温めてみるのはいかがだろうか。
12月12日(土)、シネ・リーブル池袋ほかで公開
監督=人見剛史