吉田省念の新作は「楽曲の初期イメージを形にできた」
元くるりのギタリスト・吉田省念が、5月18日(水)に6年ぶりとなるソロアルバム『黄金の館』をリリースする。それに先駆けて、吉田本人にインタビューを敢行。後編では、制作に参加したアーティストとのエピソードや、作品のこだわりなどを語ってもらった。
――細野晴臣さんがコーラスで参加されているなど、ゲストとして迎えられたアーティストの方々も非常に豪華な顔触れでしたが、今回のメンバーが集まられた経緯は?
経緯は人によって違うんですが、まずは自分が尊敬できるミュージシャンの方だったり、自分が好きな方(に参加してもらった)っていう(笑)。それに尽きますね。
細野さんに「今回のアルバムに参加していただけたら」という話を持ち出したのは、細野さんが京都にライブに来られた時のことで。多分ご本人は覚えてらっしゃらないと思うんですけど、(ライブ中の)MCで細野さんが、「僕はね、晴れ男なんだよ」って仰っていて(笑)。
そのころ僕はちょうど(本作にも収録されている)“晴れ男”という曲を録っていたんですが、これは曲ができた時から「(アメリカのギタリスト)レス・ポールみたいなギターを入れたい」というイメージが自分の中であったんです。
以前細野さんとお会いした時に、レス・ポールの話や「(一時レス・ポールとデュオとして活動していた)メリー・フォードのコーラスがいい」といった話をしていたのを思い出して。
そこで、「もし細野さんにちょっとスキャット(やコーラス)を入れてもらえたら本当に幸せだな」というか、説得力がある(楽曲になる)と思って(笑)。そういうきっかけでお話をして、曲も聞いていただいたら、割とすぐに「いいじゃない」ってコメントを頂けたのでオファーをしました。
柳原陽一郎さんは、僕は(柳原さんが所属していたバンド)たまの世代よりちょっと後なので、当時たまを聞いていたわけではないのですが、柳原さんがソロになってからの活動がすごく好きで。
『ウシはなんでも知っている』('07年)っていうアルバムを聴いて、すごくファンになったんです。そこでちょっと、「一緒にできないかな」と思って自分から攻めていきました。ライブを一緒にやって、「実はレコーディングしているんです」っていう話をしたら、参加していただけました。
(伊藤)大地くんとはもともと、僕が京都で「吉田省念と三日月スープ」というグループで活動していたころに、アルバムをリリースするときにコメントを頂いたり、'08~'09年ごろに京都で対バンしたりっていうことがあって。
それこそくるりでも、(大地くんがサポートをしていた)細野さんの東北ツアーで一緒に回ったりもしていたんです。お互いこういう形でツアーを回ることになるとは思っていなかったですし、年齢も同じなので仲良くなりましたね。
四家卯大さんは、「日本のポップ・ロックシーンを支えているチェリスト」と言っても過言ではない方なんですけど、Mr.Childrenの桜井和寿さんらが主催していた「ap bank fes」っていうイベントにくるりで参加したときに初めてお会いして。
僕はくるりでチェロも弾いていたんですが、それで声を掛けてくださって仲良くなったんです。で、(くるりを)辞めてからメールいただいたんですよ。「何してんの?」って(笑)。それでお会いして「実はこんな感じで、自分の曲を作っています」って話をして、一緒に演奏したり…。そんな感じですね。
――アルバムを聞かせていただいて、どこかフォークロック的というか、温かなサウンドがとても印象的だったのですが、今回の作品を作る上で、最初から決められていたテーマやコンセプトは何かあったんでしょうか?
決めていたことは、「曲が誕生した時の、自分の中にあったイメージを具体的に形にする」っていうことですね。イメージというのはどんどん変わっていくものだと思うんですが、その“初期イメージ”を具現化するというのが、やっぱりやりたかったことなんですよね。
――制作を進めていく中で、影響を受けた、もしくはよく聞いていた音楽などはありましたか?
BECKの「Morning Phase」('14年)というアルバムですね。シンプルにできているんですけど、すごくリヴァーヴが効いていて。(シンプルなサウンドなので)音数が少ないようでいて、いろいろな楽器の音が緻密に合わさっている作品なんです。
ここ最近はシンプルに、音数の少ない曲を作ることが多くて、そういう音楽が自分自身好きなんですが、(この作品を聞いて)挑戦というか、ものすごくトラック数が多いものになってもいいから、それを整頓していきながら作っていくということをやってみたかったんです。なので、音数が多い内容になっていますね。
あとはやっぱり、録りながら「音が響く・響かない」とか、「音が伸びる・伸びない」とか、そういう音響的な感覚についてエンジニアの方と話し合いながら作っていました。
例えば、ジミ・ヘンドリックスのギターを聞く時は、もちろんロックミュージックとして聞くんですけど、割と音響的な要素(を聞いている側面)もあると思うんですよ。
音がフィードバックしたりとか、残響であるとか、鳴ってる実音以外の空間性みたいなものが好きなのかなと思って。そこをやってみたいなというのがあったんです。うまくいっているかは分からないですけど、今回はそういう「音の聞かせ方」にもこだわりました。
――それでは最後に、今回の作品の聞きどころ、メッセージなどをお願いします。
今の時代は、「新しい音楽って何なのか」って思っている人が多いような気がしていて。自分もそうなんですが、みんなそれを追い求めてやっていると思うんです。
果たしてこれが自分にとって新しいものか、もしくはみんなが聞いて新しいかというのはさておき、初めて聞いた人が「あ、いいな」って思ってもらえたら、本当にただただ幸せだなっていう。そんな感じですね。
何か新しいことをやろうというよりかは、割と自分の好きなこと、自分の価値観にグッと寄って作ったアルバムなので、素直に聞いて共感していただける言葉っていうのは、本当にうれしいと思います。
おススメとしては…、ギターのアレンジですね。やっぱりギターの音っていうのはどの曲も多種多様というか。ブルージーなものからアコースティックなものまで幅があると思うので、そんなところを楽しんでもらえたら、長く聞いてもらえるかもしれないですね(笑)。
5月18日(水)発売
2700円(税込)
1.黄金の館
2.一千一夜
3.晴れ男
4.水中のレコードショップ
5.小さな恋の物語
6.デカダンいつでっか
7.夏がくる
8.LUNA
9.春の事
10.青い空
11.銀色の館
12.残響のシンフォニー
13.Piano solo