妻夫木聡“ダメおやじ”役も子役とは相思相愛!?
8月2日(火)夜7時30分から、夏休みドラマ「キッドナップ・ツアー」(NHK総合)が放送される。同作は角田光代の同名小説が原作。夏休み初日を迎えた小学生・ハル(豊嶋花)の前に、2カ月前から別居中の父親・タカシ(妻夫木聡)が現れ、ハルを“ユウカイ”すると宣言。金のないタカシに連れられ貧乏旅行を続ける中で、ハルはタカシの意外な一面を知る。
そんな“ダメ親父役”に挑んだ妻夫木を直撃し、理想の父親像や撮影の思い出を語ってもらった。さらに、共演者の印象について質問すると、“愛娘”豊嶋とのさまざまなエピソードが聞けた。先日行われた試写会では、豊嶋が「(妻夫木に)来年も迎えに来てほしい」とラブコールを送っており、二人の“相思相愛”ぶりが見えてきた。
――“父親役”というオファーを受けたときに、率直にどのような感想を持ちましたか?
これまでも子供のいる男性の役はあったのですが、親子が話の軸になる作品で主演を務めるのは初めてでした。岸(善幸)監督が僕を、“父親”という目で見てくれたことがうれしかったです。
――父親役のオファーが来るようになったことはどのように感じますか?
少しですが、感慨深いものはありますね。そういう年齢になったんだなと。ある意味で、ようやく大人の仲間入りをできたのかなというふうにも思いました。
実際に、周囲にも子供のいる人が増えてきたのですが、彼らにはやはり“お父さん”のにおいがするんですよね。おそらく画面でもそれが伝わると思います。そういうにおいを、子供のいない中でも出せるようになることは課題だなとも思いました。
――実際に父親役を演じられてみていかがでしたか?
撮影に入る前は、父と子の距離感について考えていましたが、初日に岸監督から「あまり“父親感”は出さないでほしい。普段の妻夫木さんのまま、父親らしくない感じの方がこの作品には合っているんです」と言われたので、父親役であることはあまり意識しないようにしました。
――タカシはだらしない“ダメ親父”として描かれますが、演じる上ではどのようなことを意識されましたか?
ただ、“だらしない”というだけにはしたくありませんでした。タカシは、どうしようもないところもあるけど、どこか放っておけないかわいげのある男でもあるし、実はすごく情に深い部分もあります。それに、人間らしい部分は残していかないといけないなと思って演じました。
父や母という設定だと、何でも子供を優先させるものと思いがちですが、それも自分のエゴで決め付けているだけかもしれないなと思うんです。実際には、うっかり自分のことを先にしてしまうこともあると思っていて。親子の話だからこそ、 “一人の人間”だということを忘れないように意識しました。特に、タカシは“うっかりやってしまった”ということが多々ある人なので(笑)。
――娘役を演じた豊嶋花さんの印象はいかがでしたか?
初対面から、構えずにぶつかって来てくれる子だったので、演じていて楽でした。父親らしくしないでくれとは言われていましたが、友達以上父親未満みたいな距離感でいられたんじゃないかと思います。
実はクランクインする前には、「一日くらい一緒に過ごした方がいいかな」「せめて一緒にご飯食べた方がいいかな」と思っていたのですが、監督から「あまり距離感は縮めないでほしい」という要望があり、一度会うだけにしました。
――どのような会話をされたのですか?
会話にはなってないかもしれませんね(笑)。基本的にはずっと遊んでいる感じです。ジャンケンしたり、近くにあったものを使って、「水君だよ」「ごっつぁんです、塩です」と擬人化したりして遊んでいました。
それから“ラジオごっこ”もしましたね。小道具のガラケーを使って、二人でラジオDJとゲストになりきって、声を吹き込むんです。花ちゃんには「オールナイトニッポン」風のテーマ曲も歌ってもらって(笑)
現場に入って徐々に仲が深まればいいかなと思いましたが、花ちゃんが純粋に僕を遊び相手として、芝居でも普段の生活の中でもいっぱいぶつかって来てくれたので、次第に仲良くなれました。そんなふうに一緒に過ごした時間があるから、原作で印象的だったラストの別れのシーンでも、お芝居ではなくて生の感情が出てきた気がします。
――作中で印象に残ったせりふはありますか?
原作にも今回の脚本にもあったのですが、「お父さんとお母さんのせいで、私はろくでもない大人になる」というハルのせりふですね。文字で見るのと、直接言われるのはやはり違っていて、花ちゃんの口からそれを言われたときにすごくショックでした。父親としてではなくて人として、そんな思いを持ち続けたまま大人になってほしくないなと思いました。
そのせりふを聞いたタカシがハルに訴え掛ける、というシーンを先に撮ったので、始まる前に花ちゃんに「せりふ言って」と頼んで気持ちを作りました。でも、逆に、花ちゃんの番の時に、「その前のせりふ言おうか?」と聞いたら「あ、大丈夫です」と言われてしまって(笑)。「小さいのにちゃんと女優さんなんだな」と思いましたね。
――撮影で苦労はしたことはありましたか?
岸監督は元々ドキュメンタリー出身の方なので、その場の雰囲気を大事にされます。粘り強く撮られるので、昨日リリー(・フランキー)さんと電話しているときにも「しつこいでしょ?」と聞かれました。「はい、しつこいです」と答えましたが(笑)。そういえば撮影序盤に、監督から「僕、編集だけは自信あるんで」と言われたのですが、あれは「その代わり素材はたくさん撮るよ」という宣言だったのかもしれないですね。
岸監督を慕って共演者も豪華な方々が集まったのですが、僕たちは長い時間かけて撮影をしているのに、1~2シーンくらい撮って、一日で帰っていくので、ちょっとうらやましいなと思っていました。「こっちは朝早くからやっているのに…」と(笑)。
でも、ボロボロになりながら、出演者やスタッフ、みんなが一つになっていくところは、タカシとハルの関係にも少し似ている気がして、この作品自体が“かわいい旅”だったなと思います。
――作品を通して、ご自身の“理想の父親像”は生まれましたか?
子供と同じ立ち位置や目線で関係が築けたらいいなとは思います。本当はもっともっと子供の声を聞く必要があって、でもなかなか聞けないのが父と子の関係性でもあるのかな。だからこそ、一緒にいるということもすごく大事だと思うんですね。
僕も芝居で行き詰った時に親に電話したことがあるのですが、おやじは何も言わなくても分かってくれて「大丈夫だ」という言葉を掛けてくれたんです。やはり父と子というのは言葉ではない部分で通ずる何かがあるんだと思います。そういったものを、一緒に過ごすことでもっともっと確かめるべきだと思うし、この作品は多分それがしっかり描けていると思っています。でも、作品自体は難しく考えずに、純粋に楽しんでもらえたらうれしいです。
8月2日(火)夜7:30-8:43
NHK総合で放送