ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第112回ザテレビジョンドラマアカデミー賞助演男優賞 受賞インタビュー

(C)TBS

濱田岳

皆さんの鋭い考察に追い詰められる感覚でした

「インハンド」(2019年、TBS系)以来、2度目の受賞となりました。

助演男優賞を頂いて、素直にうれしいです。僕だけでなく5部門受賞ということで、現場のみんなにも還元できるというか、この作品に関わってくれた人が頑張ったという証になるんじゃないかなと思うと、すごくうれしいですね。
僕としても、東堂はとても難しい役でしたし、クランクイン前は伝統ある日曜劇場枠で自分たちの世代が中心になってやるんだというプレッシャーを感じていたので、もし、そのときに戻れるんだったら、「大丈夫、作品賞をもらえるよ」と教えてあげたい。このことを知っていれば、もう少し気を楽にできたんじゃないかなと思います(笑)。


読者や記者、審査員から「苦悩と狂気の表現に引き込まれた」「家族への強い愛と罪悪感のはざまで揺れる東堂は、濱田さんでなければ演じることができなかった」と高く評価されました。

いやいや、こっぱずかしいですね。このドラマは、いかに濱田岳が苦しむかってことが大事だったという感じもします。そもそも誘拐犯の気持ちなんか分からないし、自分に置き換えて考えると、やっぱり誘拐なんて嫌だという気持ちが勝っちゃうので、僕にできるのは、娘を失った東堂の張り裂けるような苦しみを理解してあげることしかありませんでした。

白か黒かで言ったら悪いやつなんだけど、彼の情状酌量の部分を弁護してあげられるのは僕しかいないと思ったら、彼の苦しさが胸に迫ってつらくなりました。ちょっと寄り添い過ぎてしまったところはあって、撮影が終わった後も苦しくなる時間は長かった気がしますね。今でも考えると、胸がギュッとなるぐらいです。


5回起きた誘拐の中で、東堂はいくつかの実行犯だったわけですが、視聴者の皆さんが放送を見て考察していたのは知っていましたか?

僕はエゴサとかしないんですが、現場では話題になっていましたね。このドラマで僕に与えられたミッションは、第8話までは真相を隠し通すこと。だから、犯人役の心理としては考察が盛り上がってもそんなにうれしくないというか、「皆さん、真相に迫ってきているな…」と追い詰められる感じはありました。


東堂は友人である温人(二宮和也)、三輪(賀来賢人)の娘が誘拐されている間、知らないふりをして彼らに寄り添い、うそをついてきたわけですよね。

そう、親友たちも裏切ってしまう。ここまで味方ゼロな人っていないですよね。振り切った悪い犯人役は演じたことがありましたが、東堂のように「悪になりきってはいけない凶悪犯」という役柄は、やっぱり難しかったです。設定は最初に聞いて、誘拐が起きる中、東堂が裏で動いていることを知りながら演じていたので、心から楽しいシーンがありませんでした。子供を救出する場面でも温人たちは感動しているけれど、僕は喜んじゃいけない。その苦しい状況が第8話まで続き、そこで罪を告白して終わるかなと思ったんですけど…。


第8話、温人の家で「犯人はお前なのか?」と聞かれた東堂が全てを告白。このエピソードの濱田さんは迫真の演技だと評判でした。

あの一連のシーンは単純にセリフ量が多かったですね。回想部分を含めると台本47ページ分もありました。東堂は鬼になりきれず、ずっと一人で葛藤しているから、あの長いシーンも温人たちの前で“完落ち”したようにはしたくなくて、「こいつ、まだ続ける気だぞ」と見えるように演じました。みんなに「ごめんね」と言いたい気持ちはあるけれど、まだやらなきゃいけないことがある。

一番気をつけたのは、サイコパスな愉快犯に見えないようにということ。だから、これまでの経緯を説明するところも感情を爆発させないように演じました。あの場面の収録は一日がかり。ニノさん(二宮)と賢人は、僕が話している途中で飽きちゃって「ちょっとはしょってもらってもいいですか」なんて言われました(笑)。


そういう冗談が言えるほど、共演者同士いい距離感だったということですよね。

ニノさん率いるこのチームのいい雰囲気がなければ、僕は持たなかったかもしれないですね。みんなで東堂という人間を温かく見守ってくれたので、本当に共演の皆さんに救われたなと思います。


第9話、最終話も、東堂が追い詰められるシーンが続きました。

回想シーンで真犯人から電話がかかってきたところや、最終話でついに真犯人に対面したところが、感情を振り切るポイントだったかなと思います。その前に真犯人から電話がきて人質の交換が二択になり、自分の娘の心春ちゃん(野澤しおり)ではなく、阿久津さん(松本幸四郎)の娘である実咲ちゃん(凛美)を返してくれと言う場面も、そうですね。

僕の勝手なイメージでは、東堂はそこで心春ちゃんとお別れしたので、そこから真犯人に対して絶対に制裁を加えてやるというベクトルに切り替わる瞬間でもありました。だから、真犯人と対峙した場面は、平野俊一監督に「たぶん僕ならつかみかかりますけどね」と話していたんですが、いざそこで真犯人の顔を見たとき、それが鬼の顔ではなかったんですよね。人の心が残っていたので、自然と「心春ちゃんはどこだよ!」という気持ちになれた。そこがクランクアップだったので、本当に東堂を出しきれて終われました。


東堂は真犯人のことを「この人ではないか」と疑ったことはなかったのでしょうか?

いや、顔を見る瞬間までは疑ってなかったと思います。だから、もちろん妻の過ちも知らなかったし、ショックだったでしょうね。その後、警察の面会室で妻と再会する場面なんて、もうどうしたらいいんだと…。「僕は前世で何かしたのか?」と思うぐらい、悲しみの波状攻撃で、今までのキャリアが試されるシーンでしたね。

東堂という男は不器用過ぎたが故に悲しいモンスターになり、奥さんも死んでいるものだと思っていた。だから、生きている妻に会えた喜びも絶対あったはずだし、あの場でしっかりお別れできたというように見えたらいい。だから、撮影のときは「あまりしゃべりたくないんですけど」と平野監督に相談しました。「セリフでなく表情で、感情の部分で分かるように頑張りますんで」と言った記憶があります。役者に任せてくださる監督さんで納得のいく演技ができました。


二宮さんとは「赤めだか」(2015年、TBS系)以来の共演だったそうですが、今回はいかがでしたか?

ニノさんの演技の技術はもちろんすごいけれど、やっぱり人柄、人間力に圧倒されました。僕は子役の頃からご縁あって年上の大御所と呼ばれる方々とも共演させて頂いたのですが、それに通じるような大きさがある。やはり主演の人がドラマを背負ってくださっているわけで、僕ら脇役の仕事というのは、その人たちが一層輝けるように頑張ること。だから、ニノさんが主演男優賞を取れたのは、自分のこと以上にうれしいです。クランクアップのときには、ニノさんが僕に「今回も、お上手でした」と言ってくれました。その言葉をありがたく受け取っておこうと思います。

(取材・文=小田慶子)
マイファミリー

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人生最悪の事態に見舞われた家族の姿を描く“ノンストップファミリーエンターテインメント”。主人公・温人(二宮和也)はゲーム会社の社長で、プライベートでは妻・未知留(多部未華子)と小学生の娘を持つ父親でもある。そんな一見幸せそうに見える家族の日常は、娘が誘拐されたことで一変する。脚本は黒岩勉が務める。

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