<西野亮廣>ゴミ人間〜『えんとつ町のプペル』誕生の背景と込めた想い〜「100年に一度のウイルスに襲われた挑戦」【短期集中連載/第12回】
そんな中、いつの間にか影響力を手にしている僕がいて、ここで僕が動けば、少しでも救われる人がいます。思うところは色々ありましたが、そういった感情は奥の部屋に押し込んで、全てのSOSに応えることを決めました。それから、朝から翌朝まで対応に追われました。2020年が、これまでの人生で最も睡眠時間の短い一年であったことは確かです。この数カ月で、目の下のクマが一際大きくなりました。
そんな中、僕にはやらなくちゃいけないことがあります。2020年12月25日に公開予定の映画『えんとつ町のプペル』の製作です。
この試練は何を意味しているのだろう?
映画の製作途中も、ひっきりなしにSOSの連絡が入ります。長年連絡をとっていなかった友人からも「助けてくれ」と。長年連絡をとっていない友人に「助けてくれ」と言わなければいけない状況を想像すると、無視できるわけがありません。今の自分にできる救済処置を講じながら、僕は、「どうして、8年間準備を進めてきた映画『えんとつ町のプペル』の勝負の年に、こんな試練が与えられたのだろう?」と考えました。
あんまりじゃないですか。8年前にスタートして、日本中からたくさん殴られて、それでも負けずに筆を走らせ続けて、ようやく仲間ができて、ようやく回ってきた勝負のタイミングで、100年に一度のウイルスに襲われるなんて、あんまりじゃないですか。ただ、ここまで見事に運が悪いと、むしろ悲観的にはならないようで、運が悪すぎたのが良かったのか、「この試練には何か意味があるんだろうな」と考える自分がいました。
僕はストーリーを書くときに、物語の主人公の感情曲線から描いていくのですが、2020年の僕ときたら、「一人で立ち上がる→日本中から攻撃される→仲間に出会う→リベンジを図る→いけるかも→最恐の敵が現れる」という少年漫画の王道を行くようなベッタベタな感情曲線。他人に応援してもらう物語としては申し分ありません。実際、オンラインサロン内の温度も、コロナをキッカケに高まりました。「頑張って」「完成したら、必ず観に行きます」「もう友達を誘っちゃったから、絶対に面白い映画を作れよ」。コロナはたくさんの理不尽と同時に、たくさんの応援を運んできてくれました。
製作途中に、スタッフの中にコロナの陽性反応が出ようものなら、製作が止まってしまいます。すぐにリモートに切り替えましたが、思うようにいかず、コミュニケーションエラーが多発しました。スタッフ間の衝突もありました。以前のように、細かくコミュニケーションをとっていれば避けられた問題です。それがどうした?
プロモーションの一環で、僕が10ヶ月かけて全国の映画館を回り、映画『えんとつ町のプペル』のストーリーを喋るイベントを予定していました。イベント終わりで、映画の前売り券を販売することを目的としたドブ板営業です。全国行脚のスケジュールが決まり、いよいよスタートさせるというタイミングでコロナがやってきて、全てが白紙になりました。それがどうした?
映画『えんとつ町のプペル』の公開は、ずっとずっと耐え凌いで、ようやく漕ぎ着けたチャンスです。もうとっくにたくさんの人の想いを背負っています。走りたくても走れなくなってしまったスタッフの分も走っています。負けるもんか。
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PROFILE●1980年、兵庫県生まれ。芸人・絵本作家。1999年、梶原雄太と「キングコング」を結成。2001年に深夜番組『はねるのトびら』のレギュラー出演決定と同時に東京進出を果たす。2005年に「テレビ番組出演をメインにしたタレント活動」に疑問を持ち、「自分の生きる場所」を模索。2009年に『Dr.インクの星空キネマ』で絵本作家デビュー。2016年、完全分業制による第4作絵本『えんとつ町のプペル』を刊行し、累計発行部数50万部を超えるベストセラーに。2020年12月公開予定の『映画 えんとつ町のプペル』では脚本・制作総指揮を務める。現在、有料会員制コミュニティー(オンラインサロン)『西野亮廣エンタメ研究所』を主宰。会員数は7万人を突破し、国内最大となっている。芸能活動の枠を越え、さまざまなビジネス、表現活動を展開中。
◼︎オンラインサロン「西野亮廣エンタメ研究所」
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