宮本浩次、初のカバーアルバム発売「女性の曲を歌うことで、自分が解放される感覚がありました」<インタビュー>
エレファントカシマシの宮本浩次がデビュー32年目にバンド活動と並行して“ソロデビュー”したのが2019年2月。それから1年半、3月のソロ1stアルバムに続きハイペースで発表されたソロ第2弾『ROMANCE』は、初のカバー集、しかも女性曲のみという意外な作品だ。松田聖子、太田裕美、ちあきなおみ、岩崎宏美、久保田早紀……。昭和の歌姫たちの名曲と、宮本の真骨頂であるまっすぐな歌唱のコラボレーション。日本ロック界至高のボーカリストが、キャリアを意識させない裸の歌声で歌う12曲。その誠実さが、聴き手の心を震わせる。本アルバムについて、そしてコンサートの中止などが相次ぐ状況下での活動について聞いた。
――3月に1stアルバム『宮本、独歩。』をリリースして、ハイペースでのソロ第2弾です。
「もともとカバーアルバムを秋に出そうというのは去年から決めていました。3月に『宮本、独歩。』を出して、3月4月にソロツアーがあって、4月から夏にかけてフェスにもしっかり出て、一段落したと思ったら秋にカバーアルバムが出る。そういう流れを自分の中では考えていた。それで去年の11月には、音楽番組『The Covers』(NHK BSプレミアム)のフェスで歌った『あなた』(小坂明子)と、ソフトバンクのコマーシャル曲として放送された『恋人がサンタクロース』(松任谷由実)を録り終えていました。春のツアー後にレコーディングして8月下旬には終えようと考えていたんですけど、ツアーが全部、中止になっちゃった」
――まだ配信ライブがそこまで盛んではなかった6月に、WOWOWメンバーズオンデマンドでソロ配信ライブを開催しました。
「『宮本、独歩。』発売の年なので、しっかりソロで活動していこうと考えていたけれど、結果的にはコンサートはエレファントカシマシの新春の4本と、毎年恒例の日比谷野外音楽堂(10月4日)だけ。もちろんどちらも非常に充実した時間だったから、できて良かった。でも一方で自分としては、ソロで1本もコンサートができない状況で……。それで『何をやるのか』とよくよく考えて、自分の誕生日である6月12日に弾き語りのコンサートを、しかも普段の作業場から配信することに決めました。自分の熱量もスタッフの意気込みもレベルが違って、配信という形は初めてだったけど、本気で歌えました。生ですから後戻りできないし、いろいろ反省点もあるけれど、あのタイミングで配信ライブをできたのは本当に良かった。25台のカメラを使ったあのクオリティで、ほかに誰もいない中でたった一人の人が歌うというのは、たぶんみんなの目ん玉飛び出るくらいのものだったと思う。ただやっぱり、本当はソロツアーをバンドでやりたかった」
――この配信ライブは本当に素晴らしいパフォーマンスで、拍手を届けられないことがもどかしく、通常のコンサート環境においてこちらの拍手や歓声が演者に伝わっていることを実感しました。
「そう。当たり前のことですが、演ってる方はお客さんの反応によって盛り上がる。でも大事なところはね、演り手が、みんなの想像を絶する何かを送ったときにのみ、天然の反応がガーッと返ってくるわけ。やっぱり動物だから。それこそがコールアンドレスポンス、コンサートの醍醐味ですよね。私はコンサートに行くのも好きだから、あの場所のお互いのエネルギー、思いの交感というのかな、あれはすごいことだったんだなと再認識しましたね。6月の配信ライブは全く相手が見えないから、自分が何やってんだか分からなかった。でもそれを含めて、非常に面白いライブでした」
宮本浩次 ユニバーサル シグマ 3000円+税(通常盤)
収録曲●あなた/異邦人/二人でお酒を/化粧/ロマンス/赤いスイートピー/木綿のハンカチーフ-ROMANCE mix-/喝采/ジョニィへの伝言/白いパラソル/恋人がサンタクロース/First Love(全12曲)
1970年代の歌謡曲を中心に選ばれた12曲。初回限定盤のボーナスCDには、「二人でお酒を」とアルバム未収録の「September」「思秋期」「私は泣いています」「あばよ」「翼をください」計6曲の「弾き語りデモat作業場」が収録されている。
みやもとひろじ=1966年6月12日生まれ、東京都出身。エレファントカシマシのボーカル&ギターとして88年デビュー。2018年に宮本浩次名義で椎名林檎、東京スカパラダイスオーケストラとのコラボレーションを経て、19年2月「冬の花」でソロデビュー。今年3月に1stアルバム『宮本、独歩。』を発売。
撮影=下林彩子/取材・文=滝本志野