映画「無頼」で組長の妻を演じる柳ゆり菜『“気ぃ強い女やわ~”って井筒さんから言われました(笑)』
銃撃のシーンは「“撃たれてる”というト書きしかない」
――感覚の違いでいうと、佳奈が正治に誘拐されるように迫られて、その後交際が始まるというのも、今の感覚だとなかなか共感しづらいなと思いました。
そう! だから私も最初に「これは私は嫌だ!」って何回か抗議したんです(笑)。でも、連れ去られるより前にパンダの縫いぐるみをもらうシーンがあるじゃないですか、 描かれてはいませんけど、私の中で佳奈はそのとき既に正治の男らしさというか、トップに立つ人の魅力というのを感じていて。佳奈が強い女の子だったからこそ、正治の“自分よりも強くて助けてくれる”というところに「女の子になれる」って感じてるという役づくりをしていました。
モーテルに連れ去られたときは怖いし、何されるの?みたいに思いながらも、「あんたの奥さんになる覚悟なんてないわよ!」みたいな気持ちで。でも“嫌よ嫌よも好きのうち”というか、ちょっと流されてしまう女の子らしさみたいなところも持って演じました。あんな状況だったら私なら逃げだすだろうなって思うけど、そうしないのが、後々“姉さん”になっていく佳奈のキャラクターなんだなって思います。
あのシーンで正治に乗り掛かられたときに、「重いのよ」って言うんですよ。私の演技に“強さ”が結構出ていたので、井筒さんがそれを見て、乗り掛かられたときの照れ隠しとか、怖いのとか、いろんなことを隠すのにその一言が追加されたんです。
――撮影現場の雰囲気はいかがでしたか?
まぁみんな優し…優しい? 優しいは違うな(笑)。優しくはない、いや「優しくはない」もおかしいんですけど(笑)。皆さんのご想像通りの、ちゃんと厳しい現場でしたよ(笑)。でも、撮影が始まったらピリッとする感じですけど、そうじゃないときは、井筒さんとも他の演者さんとも割とコミュニケーションはありましたし、いい雰囲気ではありましたね。ただ、みんな本当に“戦い”に来てるから目がギンギン、みたいな(笑)。
――木下ほうかさんが春にツイッターで「監督がこれまでいかに多くの俳優部を無名から有名に育てたことか。育てたとは、撮影現場が学校の様なものだからだ。今作でも実に多くの無名がうじゃうじゃ出てくるが、同じことになりそうでわくわくする!!」と言っていたんですが、そういったことを感じるときはありましたか?
やっぱりこの現場を経験することって、俳優にとってはプラスになることしかないなって思います。本当にワンシーンワンシーンの熱量が高くて、妥協が許されないから、ぼんやりしてたら置いて行かれるというか迷宮入りしちゃう。本当にそれでみんな言葉を失う瞬間もあったりして。リハーサル期間を2~3カ月取ってくれる現場も今はなかなかないですし、全編フィルム撮影という経験もとてもぜいたくで、すごく特別な経験になりました。
まだあまり作品とかに出られていない、オーディションで芝居だけで出演を勝ち取った人もいっぱい出てるんですよ。見ていて本当にお芝居がすてきだなって思いますし、言うことが自然というか“演じてる”という感じがなくて。ほうかさんのおっしゃる通り、成長してどんどん活躍する人が絶対出てくるだろうなって思いますね。
――フィルム撮影って本当に今は聞かないですもんね。
だから、本当に時間が掛かるんですよ。デジタルの方が「あれ消して」とか、もうちょっと気楽に撮れる。まず、なかなか撮ってもらえないのがストレスでしたし、撮り始めても、NGを出したらお金が飛んでいく音がするような気がして(笑)。だから、カメラが回り始める「カラカラカラ~」って音がして「アクション!」と言われる瞬間がシビれるというか、たまらなかったですね。
他の役者さんに話すと、すっごくうらやましがられます。ただ、その場で映像を見返したりできないですから、どうなっているか分からない、常に手探り状態で、それもまた大変でした。
――佳奈が銃撃に遭遇するシーンが1回だけありますが、そのシーンの撮影はいかがでしたか?
めちゃくちゃドキドキしました。そのシーンは組長の正治を含め、組の上の人たちが捕まっているタイミングで、佳奈がトップとしてみんなを見ているっていう、佳奈の責任感がとても強い時期だったんです。そんなときに事件が起こるというのは、結末を知っている私からしても、なかなかキツいものがあるというか、背負うものの重さを改めて感じてしまうっていうシーンでした。
あのシーンは台本にセリフが何にもないんですよ。基本的にああいうシーンは「撃たれてる」というト書きしかないんですけど、実際にそのシーンの撮影になったら自然と言葉がいっぱい出てくるし、ああしてこうしてって佳奈が指示をしなきゃいけないので、そのプレッシャーはすごくありましたね。
――セリフが自然と出てくるというのは、やっぱり佳奈としての積み重ねがちゃんとあったからなんでしょうね。
本当にそうだと思います。リハーサルとかでつくり上げてきた佳奈像がちゃんとしていたからこそ、ああいう大切なシーンでブレなかったのかなって。日常生活では遭遇しないような展開で、やっぱり佳奈も内心は普通の女の子なので、ドキドキしている部分もちょっと出しながらやりました。
――岐阜での撮影の最後、本番で壊す予定だったセットをテスト中に重機で壊してしまったという撮影エピソードをお聞きしたんですが、他に何かハプニングはありましたか?
あるんだけど言えないやつだ!(笑) 結構面白かったんですけどね。他にあるかな…?
――言えるやつを思い出したら後でお願いします(笑)。
そうします(笑)。