作家・活動家の三島由紀夫に魅せられた人々の思い TBSに眠る三島の貴重映像も多数公開
TBSの取材報道ドキュメンタリー「JNNドキュメンタリー ザ・フォーカス」。2021年1月10日(日)深夜1:20からは「三島由紀夫に魅せられた人たち」を放送する。日本を代表する作家・三島由紀夫。1970年11月25日の衝撃的な自決から50年、今でも、三島に魅せられつづけている人たちが数多くいる。彼らは、三島由紀夫のどこに惹きつけられているのか、没後50年がたった今、三島への思いに迫る。
番組が取材したのは、三島が1968年に結成した民兵組織「楯の会」の1期生・篠原裕さん、三島に5回のインタビューを行ったラジオ東京(現TBS)1期生・新井和子さん、私財を投じて三島にまつわる貴重な品々を収集する医師・犬塚潔さん、そして、三島が唯一認めた文芸評論家・田中美代子さん。
TBSが独自に所蔵する三島由紀夫の映像や、三島にまつわる貴重な品々を映したさまざまな映像も折り込み、三島由紀夫と、彼に魅せられた人たちの人生を浮かび上がらせる。
今回の放送に当たり、番組を担当したTBSテレビ・藤井和史ディレクターに制作の狙いと見どころをインタビューした。
――まずは、番組制作のきっかけを聞かせてください。
三島由紀夫の没後50年ということで、世の中で三島のことが話題に上るようになりました。書店で関連書籍が平積みにされて、若い世代にも注目されています。50年は一つの区切りでもあるので、何か企画を考えてみようと思いました。
また、TBSでは2020年に「三島由紀夫vs東大全共闘〜50年目の真実〜」というドキュメンタリー映画を公開しましたが、コロナ禍の影響もある中で、わりと動員もよく、映画館には熱気がありました。まだまだ三島由紀夫に魅力を感じている人がいる、そんな人々の思いを伝えたいと考えたことがこの形につながりました。
映画は、TBSに眠っていた“三島由紀夫vs東大全共闘”の映像素材が中心のドキュメンタリーでしたが、それ以外にもTBSには三島の映像素材が残っており、vs東大全共闘のものを除いても1時間半余りの素材がありました。
三島由紀夫の映像、動いている三島やインタビューをしっかりと捉えたものは他局を含めてあまり残っておらず、TBSがいちばん持っている。せっかく持っている映像を世の中に出してみようという思いがあります。
――今の時代に、三島由紀夫のドキュメンタリーを放送する意義を考えられたところはありますか?
現代とのつながり、例えば若者の三島に対する声のようなものは番組中に盛り込んではいないので、三島由紀夫を全然知らない世代に対して何かを強く訴えたいという部分は少ないかもしれないですね。
今の若者と結びつけようという視点で描くことも一つのやり方ですが、「ザ・フォーカス」では、三島と交流のあった人が、どういう思いで三島と関わり、その気持ちがどう変わってきたのかということをあぶり出そうと考えました。
三島由紀夫の死から50年。50年という時間が過ぎても三島のことを思いつづけている人たちの「気持ち」を映像にした番組と言えるでしょうか。
言ってみれば、戦争の記憶について、生存者に語ってもらう番組に近いような。50年たった今だからこそ語ってもらえる、その言葉を残しておきたいと思いました。
――“三島由紀夫に魅せられた人たち”の選定はどのように進められたのですか?
新井和子さんはラジオ東京1期生。TBSに残る映像に、当時プロデューサーという形で携わられ、三島のインタビューを設定した方です。新井さんは、今91歳。新井さんがご存命でいらっしゃるということが分かったので、これはぜひ話を聞いておかなければと思いました。
番組化を目指していろいろと調べていく中で、三島由紀夫関連の膨大なコレクションをお持ちの医師、犬塚潔さんとお会いできるチャンスがありました。お話を聞くうちに、その情熱とコレクションの数のすごさに驚かされ、犬塚さんにも登場いただくことになりました。
評論家の田中美代子さんは、犬塚さんからこういう人がいますよと教わりました。田中さんは三島由紀夫本人から「あなたが最良の読者である」という手紙をもらい、作品の解説、あとがきを依頼された方です。
それらの人に加えて、やはり「楯の会」の元メンバーにもお話を聞きたいと思いました。三島由紀夫は「楯の会」のメンバーと共に自衛隊市ヶ谷駐屯地に立てこもった。その会の元メンバーが、50年たって、当時をどう総括し、今、何を思っているのかを聞いてみたく、篠原裕さんという1期生の方に連絡し、三島の50回忌のタイミングで取材しました。この50年という時間があったからこそ話せること、篠原さんがご自身で総括したことをうかがえたと思います。
――4人それぞれの方々をどう位置付けられていますか?
番組でも触れていますが、三島由紀夫は「楯の会」のメンバーには、自分の文学のファンは入れなかった。「文」と「武」をきっぱりと分けていたと思います。
篠原さんは「武」の部分で三島由紀夫をどう見ていたかという視点になります。
新井さんは、取材者というちょっと引いた、客観的な立場から三島を見ていた方。また、三島由紀夫と年齢も近いので、同世代としてどう見ていたのかという側面もあると思います。
犬塚さんは、三島由紀夫ファンという立場ですね。三島にあこがれ、研究し、三島に関する著書もありますが、コレクションがものすごい。三島関連のさまざまなものを、私財を投じて集められています。どういう心境で集めていて、どんな思いを持っているのかを伝えたいと思いました。
田中美代子さん、これは「文」、文学の部分ですね。文学者・三島由紀夫の生き方とその思い。「三島がどういう心理で作品を書いたかを唯一理解できた人が田中美代子さんだ」と犬塚さんがおっしゃっていたのですが、その気持ちについて話を聞いています。
役割分担というか、そんな風に少し色分けをしてお話を聞いてみた感じですね。
――番組では数々の貴重な映像が紹介されるようですが、いくつかを教えていただけますか。
自決の日、駐屯地のバルコニーで演説する三島由紀夫の映像はよく知られていますが、三島の動いている映像、話している映像というのは、あまり多くのものが公開されてはいないんですね。映画「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」では討論会の映像を公開しましたが、インタビューに答えている三島の映像というのは、貴重なものだと思います。それをたくさん見せます。
それから、番組に登場する「物」。それ自体の説明はほとんどしていないのですが、三島自身の写真や単行本の装丁原画など、貴重な品々の映像を盛り込んでいます。
証言者の方々の発言も番組の核ですが、TBSに残っていた映像や、それらの映像もふんだんにお見せしたいと思っています。