現場では計算をしないで、その場で感じたものを感じたまま
――撮影期間は律子にどっぷりと漬かっていたわけですね。
1カ月くらいの撮影で、自分がずっと律子だったかどうか分からないですし、結局、まだ律子のことは分かりません。現場では計算をしないで、その場で感じたものを感じたまま、自分の本当だけでやらせてもらったんです。ありがたいことに信頼できるスタッフさんだったので、そのままやったら撮ってくださるだろうとすごくお任せしていた部分もありました。
そういう撮り方をしていたのもあってか、この期間はすごく不安定でした。不安で不安で仕方がないんです。律子をやることによって不安感が増殖されたような気がしましたし、律子をやってどっと疲れました。
――そんな律子ですが、ご自身が感じた律子の魅力はどこですか?
律子は幼いときに、あることで自分の魂を一度殺しているんですよ。子供のときにどうしようもない運命っていうのを決定づけられて、魂を捨てて、地をはいつくばってきた女性なんですけど、そういうところを全部はがしてあげるとものすごく美しい純粋な魂があると思うんですよね。
そこまで探さないと見えないけれども、ものすごく美しい魅力的なものを持っていて、誰もがそれを知りたくなる。それが魅力なのかなって思います。
――最後に、この作品を通して視聴者に感じてほしいメッセージを教えてください。
きれいごとじゃないってことですかね。何事も時代とともに洗練されていくじゃないですか。だけど人間的な欲求や本能とかって実はみんな持っているのに、出せない皮で覆われているような気がして。あたかもそういう自分が本来の自分であるかのように錯覚してるんじゃないかって思っているんですけど。
みんなきれいなものが好きだけど、ダメな部分、醜い部分、自分ではどうしようもない部分って、本当は誰しもあって、そういうところに目をふさいでいいところだけ見ようとしている。でもこの作品を見ると、自分の足りないものだったり、目をつぶっていたところをまざまざと見せつけられるんじゃないかなと思います。こんなズタボロに生きている女性はこんなにも美しいんだ、ここにいる登場人物たちの人間そのものが真に美しいんだって思えるんです。そうしたら、自分はお金を持っていなくても、仕事もうまくいってないかもしれないけど、自分の人間そのものが美しければいいんだなって気付く。私はそうでしたし、そこに救いを感じました。
恋人を殺す女性に何を共感するのかって思うかもしれないけど、こういう人を知ろうとすること、こんなズタボロの人に美しさを見いだせたら、どんな人のことでも分かってあげられるというか、嫌いな人がいなくなると思うんですよね。結果、人間的に成長できるというか。今の時代にこういう目をふさぎたくなるような作品を見ることは、意味のあることなんじゃないかなって思います。
取材・文=Rum
「WOWOWオリジナルドラマ 向こうの果て」
2021年5月14日(金)スタート
全8話/第1話無料放送
毎週金曜夜11:00-11:30
WOWOWプライム・WOWOWオンデマンドにて放送・配信
(※TERASAでは各話終了後配信スタート)