お父さんはムードメーカー
百音の父・耕治は娘が吹奏楽を好きになるきっかけを作る。
若い頃、トランペットを趣味でやっていた耕治の影響で音楽に興味をもった百音。中学時代、吹奏楽部を部員ゼロから作り、自身はアルトサックスを担当した。
耕治は中学生に混じって一緒に演奏し、夢中になってつい前へ前へと出ていってしまうお調子者でもある。お父さんが多感な十代の子どもたちの中に入ってくるなんていやがられそうなものなのに、なぜか耕治はするっと入り込んでしまう。
彼の屈託のない明るさは場を盛り上げ、出てくるたびにホッとなるムードメーカーである。
百音の同級生・及川亮(永瀬廉)、野村明日美(恒松祐里)、早坂悠人(高田彪我)、後藤三生(前田航基)たちの集まりにも首を出す耕治。家業の寺を継ぎたくないと言う三生に共感を寄せる。
百音はどちらかといえばお父さんっ子で、幼い頃から音楽を通して父と一緒にいることが多い。
2歳の百音(池村碧彩)、幼稚園の百音(吉田帆乃華)、小学校2年の百音(池村咲良)、小学高学年の百音(櫻井歌織)と中学時代の百音(清原果耶)、いつの時代も耕治は百音と一緒に思い出を作って来た。
百音に音楽コースのある高校を進めたのも耕治で、受験にも合格発表にも付き添う。合格発表の時震災に遭い、百音とふたり高台から亀島の被災状況を見つめる姿は言葉にできないものが滲んだ。
でも百音がひとりでなくお父さんが一緒にいてよかった。百音のしんどい気持ちをお父さんが半分持ってくれるだろうから。
娘の物語に寄り添いながら、でも彼の物語も立ち上って見えるのが、内野聖陽の力であろう。彼の芝居によって役の厚みが増していくのである。
「ふたりっ子」の時は銀縁眼鏡の棋士
25年前、NHKドラマ・ガイド「ふたりっ子」に掲載された内野のインタビューの見出しには「屈折した男の複雑な部分を表現したい。駒を持ち歩いて指に慣れさせています」とあり、本文は史郎役にひじょうに意欲的であることを感じさせるものだった。
例えば、史郎の指に香子が惹かれるが自分の指はごついので「本気でエステに通おうと思ったんですよ」と語っている。そんな記事を目にしたら全国の主婦たちはますます彼に好感をもったことであろう。
史郎は、京大出で天文学を専攻した設定で、部屋には天体図が張ってある。銀縁眼鏡をして虫のような淡々とした人物に見えて、一回こっきりで女性を捨ててしまう「こっきり君」という異名を持ちながら、香子だけは将棋を通して特別な存在になっていく。
香子だけ特別で、厳しい勝負の世界のライバルでもある設定が大石静の脚本の巧さ。単なる王子様ではなく仕事の上でも対等で、共に成長していきたいという女性のツボをついてくる。
ちょうど1986年に男女雇用機会均等法が施行されてから10年、女性が社会進出していった時代にドンピシャだったと言えるだろう。それに、ただのクールな人ではなくて、内面に情熱をたぎらせている感じが良いのである。