不器用な菅波、スマートな亮
百音もまた震災によって心に傷を受けたが、地元を離れ働き始めた登米で菅波と出会い癒やされていく。菅波も東京で仕事に失敗をしていてなかなか立ち直れずにいたが、百音によって救われていく。
亮も菅波も悩みを内に抱えている点では同じ。でも何かと反対なところが見受けられる。彼らの違う点を見てみよう。
亮は亀島の腕利き漁師のひとり息子として生まれ、中学3年までは明るく人気者。震災を経て家と船と母を失い自暴自棄になった父の代わりに進学を諦めて漁師になった。
父譲りで漁師の才能はある。女性に優しく細やかな気遣いがある。いつも微笑みを絶やさず、女性に手を差し伸べる。未知の背中にさりげなく手を回してフォローしたり、未知が新しい服を着てきたら「かわいいね」と声をかけたり。喫茶店に迎えに来た百音には「座れば」と促しメニューを開いて差し出す。
将棋の次の手が見えている有能な棋士のように先に先にとよく気が回る人物である。相手のことを立て過ぎて自分の本音を笑顔の裏に押し隠してしまうちょっと損なところがあるように感じる。
家庭の事情から漁師の仕事まで辞めたくなって、矢も盾もたまらず百音にすがるも、すでに心には菅波がいる百音は情にほだされなかった。
一方、菅波は東京と登米を行き来している医師。ぶっきらぼうで合理性を追求し過ぎるため周囲からは変わり者のように見える。忖度がないので時々、人を傷つけてしまう。
でも決して悪気はなく、むしろ親切で、やり過ぎるくらい親身になることも。例えば、百音との会話から誕生日を割り出して気象予報士の勉強用の本をプレゼントしたり、仕事の合間を縫って勉強にもつきあったりする。
明確な答えのあることは理路整然と説明できるが、曖昧なことに言及したり行動に出たりする“くそ度胸”はなく、百音にうすうす好意を感じながらなかなか意思表示ができない。一緒に帰ることも蕎麦屋さんでのランチに誘うことも気軽にできず、熟慮に熟慮を重ねたうえでようやく実行する。
不器用な菅波、スマートな亮。こうして見ると、亮のほうがお姫様気分を味わえて嬉しいような気もするが、菅波の毒舌に悪気がないとわかれば、その誠実さは安心感がある。どちらもそれぞれ良さがあり比較はできないからこそもどかしい。