俳優・清原果耶の成長物語として
もともと清原果耶の演技力は定評があった。
デビュー間もない13歳の時、朝ドラ「あさが来た」(2015年度後期)でヒロインあさ(波留)の元で働く女中ふゆ役を演じて注目されてから、テレビドラマ、映画で活躍し、朝ドラ「なつぞら」(2019年度前期)ではヒロインなつ(広瀬すず)の前に、戦争の傷を背負った者として現れる妹・千遥という重要な役を演じた。
どちらもヒロインの心を揺らす強烈な人物という役どころで、その役割を十二分に発揮してきた。それゆえに彼女の朝ドラヒロインは強く待ち望まれ、「モネ」がある。
清原には、若さによる新鮮で自然なきらめきのみで勝負するのではなく、的確に球を投げ込む力を感じる。
例えば筆者は2020年の1、2月に撮影された映画「望み」(2020年)の現場取材で清原の演技を目の前で見た。
その時の役・雅は冷めた感覚をもったしっかり者の役で、パンフレットの取材で清原は「人の多面性を理解していて、理解したうえでそれを利用して人の波を潜ってきたような、世渡り上手な女の子という印象です。自分がどう生きていけるか、今この状況をどう切り抜けるか、本能的にそれをやってのけている」と語り、それを迷うことなく(少なくとも傍からはそう見えた)鮮やかに演じていた。
「望み」の雅は本能的な面は百音と似ているかもしれないが、不器用で何をするにも時間のかかる百音とは全く違う雅。役の違いをちょっとオーバー気味に戯画的に演じるのではなく、自然に演じて違いを見せられることが清原の才能であろう。
百音とはまったく違う人物を演じているといえば、清原が「山路ふみ子新人女優賞」を受賞した映画「護られなかった者たちへ」(2021年)で演じた役・幹子は圧巻だった。こちらも震災を経験した人物ながら、感情の出し方も角度も百音とは全く違う。
最初は「望み」の雅のようなしっかり者の雰囲気で、しだいに体の内のマグマが溢れてくる。荒れる海のような感情を演じた後に「おかえりモネ」の撮影に入ったそうだ。
そう思うと百音は壮絶な感情を出し切った後の虚無だったのかもしれない。空っぽになった心の器にまたすこしずつ水を貯めていくような、そんな歩みを清原は百音を通して表現していたのではないだろうか。
「おかえりモネ」は百音の物語と同時に、俳優として成長していく清原果耶の物語でもあった。