そりゃあ、‟朝ドラ”のヒロインもするよなと思います(笑)
――上白石萌音さんが演じる妻のお岸について、お聞かせください。
「もう尊敬しかないです。いくら(三味線方の杵屋)喜三郎の娘役だからって、作中で弾き語りなんてさせちゃダメですよ。僕も三味線を弾いたことがあるからわかるんですけど、めちゃくちゃ難しいんです。それをあの忙しい中でやってしまうんですから、そりゃあ、‟朝ドラ”のヒロインもするよなと思います(笑)。僕はあまりドラマに出演する機会がないですが、毎回、奥さんに恵まれるなと思います。『いだてん―』の綾瀬(はるか)さん然り、萌音ちゃん然り、本当に奥さんに助けられています」
――市村正親さん、高嶋政宏さんなどが歌舞伎俳優役に挑戦されましたが、いかがでしたか?
「当たり前のことかもしれませんが、ものすごく真面目に取り組んでくださったことがうれしかったです。市村さんも高嶋さんも、波岡(一喜)くんも大東(駿介)くんも皆さん、本当に真面目に。
そんなに稽古しなくても大丈夫ですよと言っても、稽古させてください、この形で大丈夫ですか?と、ものすごく真面目に歌舞伎に取り組んでくださいました。私も(中村)七之助も(尾上)松也もありがたいねと話しておりました。今回は座頭として、市村さんにはご負担をおかけしてしまったなと思います。衣装が当時のものを再現しているので重いんです。それに白塗りも大変なのに、1日に何役もして。しかも劇中劇のシーンはだいぶカットされていますが、本当はもっともっと撮っているんです。やさしいですし、すてきな先輩だなと思いました」
――舞台の大掛かりなセットが作られたそうですが、一番ワクワクしたところは?
「日本全国に古い芝居小屋は残っていますが、江戸中期の構造の芝居小屋はもうないんです。と申しますのも、あれは能舞台が元になっているので、定式幕の前に舞台が迫り出しているんです。だから、幕を閉めても舞台が残るんですね。あと羅漢台。舞台上に二階建ての桟敷席があるのですが、それを目の前にした時はまあうれしかったです。スタジオの中に芝居小屋が再現されていましたので、コロナ禍じゃなかったら、撮影後に役者たちで1本芝居がしたかったです」
――その舞台の奈落でセリを上げる役など、裏方もたくさん経験されますが、やってみていかがでしたか?
「大道具方やイノシシの足などをやりましたので、みんなにもっとやさしくなれるなと思いました(笑)。それぐらい大変でした。本当にみんなの支えがあって、真ん中の人間は輝いていられるのだなと思いました。そういえば、稲荷町の時は衣装が着物一枚で、本番まではマスクをしていたので、仲蔵だと気付いてもらえなくてね。どいて〜と言われて、『ああ、勘九郎さんだった』ということが多々ありました(笑)」