内に秘めた“哀しさ”表現
監督としてのオダギリジョーは2021年、NHKで監督作「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」を発表した。鑑識課警察犬係に所属する警察官と相棒の警察犬オリバーの活躍を描く警察もので、テッパンの警察バディものを人間と犬とで作り上げた異色作。
自身は着ぐるみを着用し犬を演じていた。主人公に対してはやさぐれたおっさん犬だが、ほかの人達には愛らしい犬に見えるというユーモアあふれる内容で、終わり方もなかなかトガっていて続編にも期待がかかっている。
また俳優としては、民放の連続ドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」(2021年、フジテレビ系)ではヒロイン(松たか子)の4人目の夫になるのか?と思わせる役でドラマの終盤を盛り上げた。仕事とプライベートとの切り分けがきっぱりしている不思議な魅力のある人物にヒロインも視聴者も大きく心が揺さぶられた。幼少期の哀しい体験が成人後にも影響を及ぼしているところは「カムカム」のジョーと重なる部分もある。
オダギリジョーの表現する、哀しみを激しく外に出すことなく、カラダの内に秘め人知れず忍耐しながら、状況を強さで突破していくのではなく、弱い(優しさと置き換えてもいいかもしれない)ままで受け止める人物は、現代人の共感を得るのではないだろうか。
るいもまた、ジョーの自分の弱さを受け入れた優しさに惹かれていく(ドラマで言うところの「共鳴」していく)。るいが認めたくなかった母への想いをジョーに言い当てられて最初は動揺するが、おかげで本当の気持ちに向き合うことができるようになっていく。
最大のコンプレックスで、そのせいで恋も諦めていた額の傷も、ジョーに受け止めてもらえた(第52回)。傷を見たときの表情、何も言わずに前髪をおろして傷を隠し、抱きしめるジョーは日だまりのような温かさがあった。そのあと、ふたりを覗いている洋服店の店員に気付いたときの目の表情もユーモラス。
このままるいとジョーはふたりで手を取り合って日なたの道を歩んでいくことになるのか。
大会に優勝できるのか。第12週も見逃せない。
NHK出版
発売日: 2021/10/25