木村拓哉、極限まで自分を追い込む原動力とは
木村拓哉がヒットメーカー・三池崇史監督と初タッグを組んだ話題の映画「無限の住人」が現在公開中。 主人公の万次を演じた木村拓哉にインタンビュー。
「映画を撮影していた時期は、万次をやるベースとなるパーソナルな自分が非常にゴタゴタしていた時期で。制限なしで爆発できる場があって、非常にバランスが保てたというか…。助かりました。監督と初めてお会いしたときというのは、実は『FNS歌謡祭』(フジ系)の現場にわざわざ会いに来てくれたんです。そのときは僕も相当構えていて…。自分では全然そんな意識はなかったけど、のちに監督から『趣味、威嚇でしょ?』って言われました(笑)。監督もどこかエクスキューズな感じがすごくあって。お互い間合いを取り合っていた感じでしたね」
本作で木村が演じる万次は、顔に大きな傷を持つ、独眼の男という異様なルックス。さらに、どれだけ無残に斬られても死なないという不死身の体を持つ男だ。そんな万次が、愛する妹・町(杉咲花)を殺され、その悲しみの中で100人を斬りまくる万次のすさまじい怒りは圧巻の一言。そして、妹そっくりな少女・凜(杉咲・2役)と出会った万次は、不死身の体を盾に、凜を守り抜くことに…。
「とはいえ万次って、決して剣に長けた人間ではないんですよ。不死身だけど、めっちゃ弱い(笑)。彼はとんでもない時間を生きてはいるけど、自分の中で剣を手にする身としての答えがずっと出せてなかったヤツだったんじゃないかな。でも、杉咲さんが演じてくれた町の存在、そして凜が現れたことで、最終的に剣を持つ理由、答えが出せたのかなと。そういうアプローチで撮影していたので、杉咲さん演じる凜を100%こっちが感じ取れば自ずと答えが出てくる…。そういう作業でしたね」
壮絶な殺陣をスタントなしで演じた木村。豪華キャスト陣との“ガチ”の戦いの中で相手を感じ取ることで迫真の場面が生まれたという。
「今回のアクションは、一連の動きも速さも間合いも、音楽みたいにテンポが決まっているようなものじゃなかった。“避けなかったら、そこで死ぬからね”っていうような…。その瞬間を相手役と2人で作っていく作業に、加減は必要なかったです。そういう場面を積み重ねていくと、どんどん他の共演の皆さんもガチになっていって…。すごかったです」
アクションの最大の見どころは、見渡す限り敵という状態で戦うクライマックスの大立ち回り。
「普通の作品で同じようなシーンを撮る場合、次のアクションが動きやすいように、殺めた人がなぜか苦しみながら向こうにちゃんとどいてくれる演出になってたりするじゃないですか。でも、今回はそういうものがゼロ。殺めれば殺めるほど足場を失っていくんです。その感覚はちょっと怖かったですね。生き残った万次=自分からすると、斬られた人たちはもう命絶えた“物”でしかない。踏みつけようが何しようがっていう感覚になるんです。それは三池さんのあの現場で初めて体感しました」
映画を撮っている間は「見てくれるお客さんのことまで考える余地はなかった。万次というキャラクターをあの現場でプレイすることだけが全て。目の前で本気で斬りかかってくる人がいる状態で、お客さんを意識してたら対峙できない」と木村は語る。万次役とは自分を極限まで追い込むような役柄だったのだろう。木村にとって、そこまで役に自分を駆り立てる原動力とは?
「今回の映画で言えば、やっぱり三池組のみんなかな。自分から見てすげえなって思う人たちに『うわ!』って思ってもらえたらうれしいですから。ドラマ『A LIFE〜愛しき人〜』(TBS系)の現場もそうでした。タッド(浅野忠信)が病院の方に歩いて行って、僕が手前に歩いて画角からアウトするカットを撮ったとき、カメラマンの人に『今の動きだとただフレームアウトするだけだよ』って言われて、やられた!と思って。つまり、2人のそこで交わした会話の余韻やそれによるメンタルがしっかりそこになくちゃ!って。監督ももちろんディレクションしてくれてるけど、カメラの人も本気で目の前で僕を撮ってくれているっていう事実がそこにあったんですよ。そうなると自然に、自分も半端なことはできない。そういう本気度は『無限の住人』の現場も全く同じ。三池組って現場の人間全員そうですから。そんな人たちに『ナイス!』って言われたら、それほどうれしいことはないです。その積み重ねが自分のモチベーションになってると思います」
取材・文=本嶋るりこ