泣きながら描いたネーム、“何度も読みたくなる”仕掛け、緻密な作画…作者・武田さんにとって「思い出深い作品」
――『大好きな妻だった』を創作したきっかけや理由があればお教えください。
ふと「好きな人は素晴らしいけど、いつか死ぬという点だけは最悪だ」と思ったのがきっかけで、それで考えてみたお話です。
近しい人のお葬式の後、その人との関係が生前どうだったかで気の持ちようが違いますよね。好きであればあるほど、失った後は深い悲しみに襲われて、当分まともに生活すらできないんじゃないかと自分は思います。その一方で、汚物の処理、面倒な手続き、余計なひと往復、相手へ寄り添う姿勢作り、削られる貯金、いつ状態が悪くなるかという不安…これらから解放されるという安堵も、時としてありますよね。私が今まで生きてきた中で思っていたそういうことを、わざわざ実践しようとした、愚かだけど必死な妻と、それに気づかない愚かだけど健気な夫、その2人の関係の収束を描こうと思いました。
――『大好きな妻だった』を制作中の思い出深いエピソードがあればお教えください。
ネームの時点ではボロボロに泣いていたのですが、ネームが他の2つの編集部でボツになった後からは一滴も涙が出ず、なんならかなり精神を病み、その恨みを晴らすかのように作画した思い出深い作品です。作画はめちゃくちゃ気合入れるけど、「作画にめちゃくちゃ気合入ってる」方へ読者の気が散らないように…とか考えながらやっていたので頭がパンクしそうでした。
何回も読めるような画面にしたかったので、邪魔しない程度にいろんな仕掛けをしてあります。よろしければ何度か読んでみてください。
――短編集『あと一歩、そばに来て』や『BADDUCKS』(双葉社)など、武田登竜門さんの作品の登場人物たちは、表情や仕草までが緻密で繊細に描かれているのが印象的です。『大好きな妻だった』では、千香の病前と病後の姿が描き分けられているように感じますが、作画の際のこだわりがあれば教えてください。
同じ人物の病前と病後をはっきり描き分けたのはこれが初めてでしたが、個人的にはどんな状態の人も描くのが好きなので、千香のことを「醜くなってしまった」という風には描けませんでした。かといっていわゆる「美しい病人」にもしたくなかったので、その辺の匙加減は難しかったですが、すごくやりがいのある作画でした。
――今後の展望や目標がありましたら、お教えください。
新作『DOGA(ドガ)』は特に力を入れているので、既作よりも更に地方の小さな書店にまで並ぶような作品になってくれると嬉しいです。今後はなるべく安定した環境でのびのびと漫画を描いてお金をもらって過ごして、描くのに飽きたら別の仕事をしたいです。
※インタビューの一部は短編集『あと一歩、そばに来て』あとがきから引用
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