草なぎ剛がドラマ、映画、舞台と俳優業を活性化させている。現在は、仲野太賀主演ドラマ「拾われた男」(毎週日曜夜10:00-10:45、NHK BSプレミアム) に出演中だ。バラエティー番組で見せる表情とは打って変わり、それぞれの作品の世界に溶け込みながらも目が離せなくなる草なぎの演技には底知れない魅力がある。(以下、「拾われた男」ほか出演作のネタバレがあります)
主人公が苦手に思う兄を演じる
「拾われた男」は、俳優・松尾諭が自らの波乱万丈なサクセスストーリーを書いたエッセーをドラマ化。俳優志望の男・松戸諭(仲野)が、他人に“拾われ”続けることで夢も恋も掴んでいくヒューマン・コメディ。NHK BSプレミアムでの放送のほか、ディズニープラスのブランドコンテンツ「スター」で見放題独占配信(毎週日曜夜11時配信)される。
同作で草なぎが演じているのは、他人に“拾われ”続けてきた諭が“捨てた”兄・武志。諭は幼いころはその背中を追いかけながらも、無表情でとらえどころのなさからいつしか苦手になってしまっていた。
第1話で諭が俳優になる宣言を家族にしたとき、「俺もハリウッドでも行ったろうかな」とつぶやいたが、本当に突然アメリカへと旅立った武志。その後、現地の大学を中退し、消息不明状態に。
諭が俳優として、また結(伊藤沙莉)という運命の相手を見つける物語が描かれていくなか、レンタルビデオショップで日本映画作品を手にとったり、ちょんまげカツラをつけて撮影したりという姿がほんの少しずつ映し出されていた。
そんななか、いつも気にかけてくれた祖母の容態が悪くなった時も連絡がままならなかった武志に対して、諭が「あなたとは家族でもなんでもありません。もう縁を切ります」というメールを送る様子が描かれたのが第5話だった。
真に迫る病人の演技に反響
そして、満を持しての草なぎ登場となったのが、第7話。武志が脳卒中で倒れたと連絡が入り、諭がアメリカにやってきた。
病院を訪れた諭が見たのは、車いすに乗った武志の姿。諭が来たことを知った武志は、右手を力なく上げて「諭…」と絞り出し、なんとか笑顔を作ろうとするもうまくいかない様子だった。左半身に麻痺を発症し、思うように動けなかったのだ。車いすからベッドへの移動を手伝った諭の「兄は臭かった」というモノローグが、そのまま伝わるようなリアルさだった。
SNSでも「病人にしか見えなくて不安になるほど演技が上手い」「もう演技じゃなくて、そのものだった…父が同じ病だったから解る」「役への作り込みとその迫力にちょっと震えた」など、反響が相次いだ。
なかには、2003年放送の草なぎ主演ドラマ「僕の生きる道」(フジテレビ系)を思い返すファンも。同作は、淡々と生きてきた教師が余命1年と宣告され、生きることの真の意味を見出していくという物語。病気が進むにつれ、あばら骨が浮き出るほどの役作りを見せた草なぎに称賛が寄せられた。
「拾われた男」第1話で、武志は「諭がデ・ニーロになれるように祈ったるわ」と言った。デ・ニーロとは、アメリカの名優、ロバート・デ・ニーロのことで、徹底した役作りで知られる。草なぎ自身が、デ・ニーロばりの真に迫る演技を見せているのだ。