何十年経っても中高当時と変わらない関係性
――お2人は中高の同級生ということで、当時のお互いの印象はいかがでしたか?
鈴木 中1の臨海学校で、皆が騒いでるから何だろうと思ったら、岩場の上にミー坊がタコの墨を浴びて全身真っ黒で「とったぞー!」ってやってて。こいつ、人を驚かすのが好きなんですよ。だからタコを持って、周りの子たちが蜘蛛の子を散らすように逃げてる中「ほらほら!かわいいよ!」って。それを見たときに「化け物だ!化け物がいる!」って思いました(笑)。
さかなクン ありゃりゃ…。浜に浮いてたハコフグちゃんを持って帰ろうとしたら、校長先生にめちゃくちゃ怒られたんですよ。「バスに持ち込むな!返してきなさい!」って。
鈴木 学校では先生の授業聞かないで、魚の絵を描いてるか剥製を撫でてるかでしたね。高校の頃、俺がミー坊の後ろの席で、こいつ机の下でなんかゴソゴソやってるなと思って見たら、机の下でずっと剥製を撫でてて。
さかなクン 今だから言えるけど、あれは作りたての剥製でひれの位置とかを整えてたの。
鈴木 授業中に整えんな!(笑)でもTVチャンピオンに出たりしてバーンとスターになったので、そこからは今のミー坊にかなり近づきましたね。
さかなクン えへへ。拓くんはサッカー部でスポーツ万能なイメージでした。自分にないものを持ってるんで、あんなにサッカーできたらかっこいいだろうなって。シルエットももっととんがってたし。
鈴木 痩せてたしね。…俺のエピソード薄くない?(笑)
さかなクン いやいや!いつも周りを笑わせてくれて。自分は吹奏楽部で拓くんはサッカー部だったので「お前ら楽器吹いてりゃいいんだからいいよなー!」とか言うんですよ。
鈴木 俺のイメージが悪い!
さかなクン でも嫌味に聞こえないんですよね。これが拓くんだな!って感じで。だからクラスが違っても唯一「拓くん体操着貸して!」とか頼みやすくて。今でもそうなんですけど、何にも緊張しない。何十年経っても当時と全然変わらない感じです。
自分の好きを大切にするってすごいこと
――本作ではさかなクンが幼い頃から魚を大好きな様子が描かれていますが、周りを気にせず好きなものを追いかけたくても、特に学生時代は学校という狭い世界で、どうしても周囲を気にしてしまう子も多いのではと思います。さかなクンはそういう経験は全くなかったですか?鈴木さんから見ていかがでしょうか。
鈴木 多分、一時期はあまりバレないように隠してたと思いますよ。さっきの、机の下で剥製を撫でてたのもそう。でも魚への“好き”がドライアイスの煙みたいに溢れ出てた(笑)。それにだんだんテレビに出演したり有名になって、周りも「こいつスゲーんだ」って認識し始めて。高校2年生くらいからは、ファンレターが届いたりとか…。
さかなクン 高3になりたての春なんだよね。
鈴木 うるせえな!じゃあ高3の春でいいよ!(笑)俺からしたら17歳のイメージだから!意外と細かいんだよな。とにかくそこからは「魚が好きだ!」ってのを全身全霊で出すようになりましたね。それまでは、ちょっと人目を気にしてる感じはありました。(さかなクンへ)若い子たちにアドバイスするとしたら?
さかなクン そうですね。若い子たちには、頑張って…楽しい…その…夢中なことを…。
鈴木 薄っ!!もっとあるだろ!何それ!あまりの薄さに衝撃受けたわ。
さかなクン (笑)。自分の好きを大切にするって、すごいことなんだなって。自分は本当に人に恵まれて、拓くんをはじめ友達も、見守ってくれたり応援してくれたりして。
鈴木 ミー坊が魚の絵ばっかり描いてるから、お母さんがPTAで「大丈夫ですか?」って聞かれたそうなんです。でもそのとき「私の子どもは自分の好きなことだけをやらせてあげてもいいと思う」って皆の前で言ったらしくて。その話が広まって、うちの地域では「ミー坊のお母さんみたいにならなきゃダメだよね」ってことになってます。
――親御さんの間でも、そういう自由な教育方針が大切ということが広まっていたんですね。もうひとつ、さかなクンが以前朝日新聞に寄稿した「今いじめられている君へ」という文章が非常に話題になりました。教室という狭い世界で起きるいじめを、魚の水槽の中で起きる仲間外れの習性に例えて共感を集めましたが、この文章はどんな経緯で書かれたのですか?
さかなクン 朝日新聞の記者さまに、「さかなクンは学生時代いじめにあったことはないですか」と聞かれて。自分自身学生の頃に「魚!」とか「やいタコ!」って呼ばれたりして、後から冷静に考えると、あれはからかわれてたのかも、軽~いいじめだったのかも、と思うんですが、当時は嬉しかったんですよね。「魚って呼んでくれてありがとう!」って。だから不思議と平穏に過ごせていました。でも飼ってるメジナちゃんを見ると、1匹がいじめられるようになるんです。その子を違う水槽に移してもまた別の子がいじめられる。それを見ていて、ひともメジナちゃんの世界と同じように思ったんです。広い海の中ではそんなことはないけど、狭い中だと1匹1匹の生きようとする力が縄張り意識になってしまう。
鈴木 だから広い社会に出たら、そういういじめはなくなっていくってことだよね。