目の前に現れた人は縁があると思うから、そうした人を喜ばせたいという気持ちは常にあります
本作では、ソウル・フラワー・ユニオンの奥野真哉(キーボード)やウルフルズのサンコンJr.(ドラム)などの、真心ブラザーズ作品でおなじみの豪華なゲストプレイヤーが参加している。大仰ではないが、それぞれの音に確かな生命が宿り、バンド演奏ならではの躍動感が伝わってくるすばらしい演奏も、本作の大いなる魅力となっている。
桜井「この7~8年くらいそうなんですが、レコーディングの現場では頭で描いた正解をなぞるのではなくて、スタジオでみんながバンと出した音に対して、脊髄反射で出た音を録音しようと思っています。もちろん録音のための青写真を持ってスタジオに行くんですが、そこに無理に寄せていくんじゃなくて、その場で出てきたもの、生まれたことを大事にする。だから、レコーディングではバンドのみんなで“せーの”で一緒に録ることが多く、ギターソロも“せーの”で録ります。弾いたものはその後手直しはしません。僕自身が後から聴くと、『あれ、やっちゃったな』と思うところもあるんだけど(笑)、バンドのメンバーが贈ってくれた音にその場で返した結果だから、そこで手直しするのは違う気がする。本当は返したいと思っていたけど、返しきれなかった部分も含めて自分で責任を持って録音しています。当然、1音1音を丁寧に心込めて弾くようになりますし、レコーディングの日は裃を着て『行ってまいる!』というような気持ちでしたね(笑)」
旧知の盟友と奏でる豊かなバンドサウンドのほかに、本作では新しいクリエイターとのコラボレーションも実現した。80年代風のディスコミュージックにいまっぽさを潜ませた「LOVE IS FREE」は、3ピースロックバンドplentyの元ギター&ボーカルで、現在はソロで活動しコンポーザーとして多くの作品を提供する江沼郁弥に、トラックメイクからミキシングまでを託した。
愛があれば放っておいても夢は叶う、大切なのは許して寄り添うこと、と優しく歌いかけるこの曲をはじめ、このアルバムには大きな愛で満ち溢れている。決して押しつけがましくなく、説教くささも感じないが、だからこそ、その柔らかさや優しさに心励まされる思いがする作品となっている。
YO-KING「少し前までは、愛とかストレートに歌うことに少し照れがあったけどそれがなくなってきたかなと。恋愛対象に限らず、目の前に現れた人は縁があると思うから、そうした人を喜ばせたいという気持ちは常にあります。ライブなら目の前のお客さんだし、レコーディングならエンジニアや演奏してくれるミュージシャンに喜んでほしい。飲み会でも同じですよ。それを幼稚園のころから続けているんですが、不思議と疲れない。面倒くさいとも思わないし、だからずっと人気者です(笑)。『LOVE IS FREE』は、アルバムでトラックメイカーと一緒に作った曲があったらいいねという話になっていて。誰がいいだろうかと思っていたところに、江沼君とひょんなことで知り合った。これも縁かなと思ったので、制作をお願いしました。世代も違うし、いろいろと勉強になりましたね」
桜井「楽器を1つずつ重ねていくバンドとは全然作り方が違って、完成したトラックをばんと提示する感じなんですよね。この曲には弾き語りのデモがあって、そこから依頼されたから江沼君も面白い経験になっただろうなと思います。けど、この曲は基本的に打ち込みだからツアーではどうやって再現するのかな? バンドでやるのも違うかなって感じがするし、どうする?」
YO-KING「そうだね…。カラオケかな?(笑)」
しっとりとして落ち着いた「雨」では、4人組バンドWONKの鍵盤奏者で、King Gnuの常田大希が主宰する音楽家集団・millennium paradeの一員でもある、江﨑文武の奏でるピアノ伴奏による一発録りを行ったという。
YO-KING 「ボーカルに関しては今回も絶好調だったので、どの曲も思うように歌えたと思います。『雨』は、独特の雰囲気がある曲で、ピアノの独奏で録りました。最近、ブルース・スプリングスティーンをよく聴いているんでが、その中にピアノで弾き語る曲がいいなと思っていて。スプリングスティーンは、すごく音楽に入り込む人で、俺もそうありたいと思っているけど、ライブではMCになると地上に出てきちゃうから、あそこまで入れる人に…、憧れじゃないけど、いいなと。ライブに来てくれるお客さんは、僕が彼みたいに入っていくこと、潜っていくことを確実に望んでるだろうから、今後もそこは努力していきたいですね。『雨』は、そういう意味で潜りやすい曲かなと思います」
収録曲●一触即発/君がすべてだったよ/群衆/LOVE IS FREE/破壊/Boy/雨/ブレブレ/うたたね/白い紙飛行機
真心ブラザーズ=(写真左から)桜井秀俊、YO-KING。1989年大学在学中、音楽サークルの先輩YO-KINGと後輩だった桜井で結成。同年9月にメジャーデビュー。YO-KINGは全員フロントマンのカーリングシトーンズのメンバーとしても精力的に活動、桜井は楽曲提供、サウンドプロデュースなど、それぞれ活躍中だ。11/3(木)からライブツアー「FRONTIER」をスタートさせる
公式URL=
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