8人全員を描き分ける会話の妙
また、ダウの魅力を語る上で欠かせないのが、8人組という大所帯であるところ。8人全員が舞台に立ち、丁々発止のやりとりが展開される場面や、この人数ならではの喧噪やざわめきを表現する場面には舌を巻いた。下手すれば会話は冗漫になりそうだし、8人全員のキャラを立たせることだってそう簡単ではないだろう。
だが、蓮見は8人の差異を巧く書き分けている。コントの内容やネタによって出演する人数が増えたり減ったりするが、出演俳優がいちばん光るポイントを熟知していると思えてならない。台詞の面白さもずば抜けていて「花の名前教えて消え去ってやろうかな」「やめてよ。咲くたびに思い出すじゃん」等々、ヒップホップで言うところのパンチラインが満載。テーマらしきテーマもなく、会話があちこちに転がって、まったく予期せぬ地点に着地するのも驚愕ものだ。
時に冗長で迂遠にも思える(しかし、とびきりユニークな!)台詞には、時折、クエンティン・タランティーノの映画での会話を連想した。が、筆者には近年のタランティーノよりダウのほうが巧緻と思えるほどだ。気まずい空気やぎこちない会話、意識の疎通ができていない様子は、演劇畑で揉まれたからこそ出てきたものだろう。「8人はテレビを見ない」の、焼肉屋でのスピード感溢れる会話の応酬などは、演劇にも片足を突っ込んだ8人だからこそできる妙技だと思う。むろん、8人の役割分担をどうにかとりまとめて形にするのには、相当な技術が必要だ。作・演出の蓮見翔は、集団創作の楽しさと難しさを既に知悉しているようだ。
また、初見の観客にも親しみやすいのは、あるあるネタが仕掛けられているところ。演劇でもお笑いのライヴでも、「ここは明らかに笑いを取りにきているな」という台詞や挙動は観客にも伝わるが、彼らはそういう笑いどころで絶対に外さない。ここぞ、というところではすべて爆笑を取るのだ。しかも、「ここ、面白いでしょ?」的なドヤ顔をひとつも見せず、その佇まいはひたすらクールである。
最後になってしまったが、バイオグラフィーを。ダウは日本大学芸術大学出身のメンバーを中心に結成。メンバーは20代前半から中盤で、2020年に旗揚げ公演を行った…と冷静に書いているが、たった2年でブレイクし、既に本多劇場での公演も決まっている。一足飛びに演劇とお笑いのトップに躍り出たのはとんでもないことだ。おそるべき才能。大器。傑物。アンファン・テリブル。革命児。そんな風に美辞麗句を並べたくなるほど才能と技術と力量を、ダウは孕んでいる。それだけは…いや、それこそは間違いないと断言しようではないか。
■文/土佐有明