コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、家庭での虐待や学校生活に悩む女子中学生が、不思議な女の子“殿波シヲン”と入れ替わったことで徐々に理性を失っていく姿を恐怖感たっぷりに描いた漫画『殿波さん』をピックアップ。2022年のエッジCOMICアワードで佳作を受賞した本作を、作者である鯨井陸さんが10月27日にTwitterに投稿したところ、1.3万以上(12月1日現在)の「いいね」が寄せられ反響を呼んだ。この記事では、鯨井陸さんにインタビューを行い、創作の裏側やこだわりについてを語ってもらった。
“殿波シヲン”として過ごし自分を失っていく主人公・恵 小さな違和感が徐々に恐怖へと変化
中学3年生の安井恵は、学校では友達が一人もおらず孤立し、家に帰れば家庭内暴力を受けるという辛い日々を送っていた。ある日、殿波シヲンという少女とペンフレンドになった恵は、文通する中でシヲンが理想の生活を送っていることを知り、羨む。数日後、シヲンから「入れ替わってみる?9月9日」と記された手紙を受け取った恵。その日付に目を覚ますと、豪邸の中に住むシヲンと体が入れ替わっていた。
3日間“殿波シヲン”として扱われ、いつもと正反対の優雅な生活を経験した恵は、シヲンの計らいでその後もたびたび入れ替わって過ごすことに。しかし、自分の体に戻ると父親から暴力を受け、クラスメイトからもいじめられる恵は、シヲンの協力的な友人や優しい父親に囲まれて過ごす時間に幸せを感じるようになり、次第に“戻りたくない”と思うようになっていた。
毎日受ける虐待で身も心も限界に達しようとしていた恵はある日、シヲンからの「殿波家の養子にならない?」という幻聴を聞く。その声が救いに思えた恵はシヲンの提案に乗り、家族を殺害し自宅に放火をすると、森の中へと行方をくらます。シヲンたちと楽しく幸せに過ごす幻覚を見ながら、満身創痍で殿波家の場所を探す恵だったが、たどり着いた先は真っ暗で草木に覆われた“豪邸”だった。そして、ドアの前で力なく呼びかける恵の前に笑顔のシヲンが現れ…。
殿波シヲンに“救い”を求める切実な思いから、夢と現実の間を彷徨うユウの姿を恐怖感たっぷりに描いた本作。Twitter上では「結末が切ない」「ハラハラ感もあり最後まで一気に読んでしまった」「妄想か、自分で夢を見てたのかな」などのコメントが寄せられ注目を集めている。
「自分より幸せそうな他人との差に直面した時のつらさを作品に」 作者・鯨井陸さんが創作の裏側を語る
――『殿波さん』を創作したきっかけや理由をお教えください。
担当編集さんと賞に出す読切に何を描くかを考えていた時、私が長年文通をしていたことがきっかけで文通から話を広げることになりました。
――本作では、家庭内暴力を受けている主人公・恵と、恵の“理想”の生活を送る殿波シヲン、2人のキャラクターが強いコントラストで描かれています。恵とシヲンのキャラクターはどのように生み出されたのでしょうか?
人は慢性的なつらさより、他の人の当たり前を知って、自分との格差を感じてしまった時が一番つらいのではないかと考えたのが始まりだったと思います。
今はSNSで自分より幸せそうな人の生活が次々と流れ込んでくるので、多くの人がそのつらさを感じているのではないかと思いました。自分より幸せそうな他人との差に直面した時のつらさを、もっと大きなものにしたらどうなるのかが見てみたいと思い、真逆で圧倒的な差のある二人にしました。
――本作では、恵がシヲンとたびたび入れ替わることで理性がだんだんと壊れていく様子が違和感とともに描かれ、予想外のラストシーンも衝撃的でした。鯨井陸さんにとって、物語を生み出す際のこだわりや意識している点はありますか?
意識でもこだわりでもないかもしれませんが、私は漫画が大好きなんですがあまりTHE王道な漫画にはハマれずに生きてきたため、自分が作るときも大多数の人にウケるというより、刺さる人には刺さるみたいな話になっていると思います。大衆受けを狙って軽く流されるよりかは、誰かにがっつり刺さる、みたいなところを目指すべきな気がしてます。模索中です…。
――『殿波さん』の中で、鯨井陸さんが特に思い入れのあるシーンやセリフがあれば、理由と共にお教えください。
教室のガラスを割った恵がこっちを見てるシーンです。読切のいいところは、後先考えなくていいところだと思います。どんどん取り返しのつかないことをしてると、よしよしと思います。普通椅子振り回してたら汗をかくと思うんですが、なぜか汗を描いてなくて…。なんで描かなかったのか思いだせないんですが、汗一つかいてないのが逆に不気味さが増しててよかったと思いました。
――今後の展望や目標をお教えください。
商業誌で連載して、沢山の方に読んで頂くのが目標なので、それが実現できるようにしていきたいです。そのために、自分が描けるものとみんなが見たいと思っているものの落としどころを見つけたり、描くスピードを上げたり、課題をひとつひとつクリアしていきたいです。
――最後に作品を楽しみにしている読者やファンの方へ、メッセージをお願いします。
読んでいただき本当にありがとうございます。『殿波さん』のような暗い漫画は特に感想が集まりにくいので、ぜひ一言でもコメントをいただけますと幸いです。まだまだいい漫画が作れるように精進いたしますので、何卒よろしくお願い申し上げます。
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