夜ドラ「作りたい女と食べたい女」(毎週月~木曜夜10:45-11:00、NHK総合)が11月29日(火)から放送される。原作はゆざきさかおみによる同名漫画。料理を作るのが好きだが小食の野本さんと、食べることが好きでたくさん食べる春日さん、ふたりの女性が出会い、共に食卓を囲んで交友を深める中で生まれる恋と連帯を描く本作は、SNSで多くの共感の声を集め、ドラマ化の第一報にも活発な反響がみられた。今回のドラマ化にあたり、制作統括をつとめるNHKの坂部康二さんにインタビューを行い、ドラマ化の企画経緯や狙いを聞いた。原作を読み「今の時代の空気が共有された作品」だと感じ、ドラマ化を提案したという坂部さんは、本作について「女性同士の恋愛が、自然な形でメインで描かれることに意味がある」と語る。
「つくたべ」は「今の時代の空気が共有された作品と登場人物」
ドラマ化のきっかけは、坂部さんが偶然SNSで原作漫画の「作りたい女と食べたい女」(以下「つくたべ」)を読んだことだった。
「ちょうど『アナと雪の女王』以降、シスターフッド(女性同士の連帯や結びつき)をテーマにした作品が増えてきていて、今まであまりドラマで描かれてこなかった人や人間関係を描いてみたいと思っていたんです。『つくたべ』では女性同士の連帯や結びつきに加えて、女性同士の恋愛を描いていて、さらに男女間の賃金格差など、『なんで今までちゃんと描かれていなかったんだろう、描かれるべき』と感じるような部分も表現されている。今の時代の空気が共有された作品と登場人物である点に魅力を感じました」
そもそも、なぜこれまでシスターフッドをテーマにした作品が少なかったのか。その理由を坂部さんはこう推測する。
「家父長制に基づく男性中心社会が反映されている部分はあるのではないでしょうか。ドラマで男性同士の競い合いや共闘関係などはフォーカスされても、女性同士の絆にメインのフォーカスが当たることはあまりなかった。でも、そうでないところにも物語はあるし、多様性が語られる中で、そういったドラマが作られる機会が増えてきたということかもしれません」
ドラマ化にあたり、坂部さんは「意味」と「責任」の両方を感じているという。
「全国ネットで、見たい人が誰でも見られるので、漫画を読まない方をはじめ、新しい層の視聴者に届けられる。そこに意味があるし、同時にある種の責任も感じています。また生身の人が演じることで、登場人物の心の動きや葛藤がよりリアルに伝わる。原作でもすごく丁寧に描かれていますが、改めてドラマ化にあたり、この感情とこの感情の間をどうつなげるか、を細かく話し合って脚本を作っています」
オーディションで選ばれた春日さん役の決め手は?
今回、物語の主人公である野本さんは比嘉愛未、そして野本さんが出会い恋する春日さんはオーディションで選ばれた西野恵未が演じる。元々俳優として活動してきたわけではなくミュージシャンである西野は、オーディションによって選ばれたキャストだ。2人のキャスティングについて聞いた。
「前提として、原作で描かれている春日さんの人物像になるべく外見を近づけたいと思ったとき、俳優として既に活動されている女性の中で、なかなか体格的にあてはまる方が見つからなかったんです。これはルッキズムとも関連すると思いますが、背が高くて細い、いわゆるモデル体型の方はいても、原作の春日さんのようにがっしりした体格の方はいなかった。でも、この作品は『じゃあ細くしていいよね』というものではない。そこでオーディションを実施しました。もちろんドラマ化する上では、俳優として知名度のある人をキャスティングした方がいいという考え方もある中で、オーディションというやり方をとれたのはすごくありがたいです。選考では外見の体格や印象、演技経験が浅い方の場合はトレーニングを受けていただく時間があること、食べるのが好きという点を重視しました。春日さんというキャラクターが持つ魅力を、ちゃんと表現できる方という軸で考えました。
野本さんは原作の年齢設定が30代なので、そのリアリティが伝わるよう実年齢が近い方に演じていただきたかった。比嘉さんは演技の実力、俳優としての知名度、ご本人がLGBTQ+に関心があり理解しようとしていること、料理がお好きなこと、いわば全ての必要項目を満たしていて、ぜひお願いしたいと思いました」
近年では、機会の平等の視点から、マイノリティのキャラクターは当事者であるマイノリティが演じるべきではないかという考え方も生まれつつある。坂部さんもそれを検討したが、今回は難しかったという。
「レズビアンをオープンにしているプロの俳優さんは、現状だとそんなに数がいらっしゃらない。もちろんそれ(セクシュアリティ)は必ずしもオープンにしなければいけないものではありませんが。今後誰もが(セクシュアリティを)オープンに発信しやすい時代や社会になったときには、レズビアンの役はレズビアン当事者の方に演じてもらうという選択肢が最初に来るべきと思います。ただ現状はまだそうでない、過渡期の中での選択です。また、セクシュアリティは一定ではなく変化することもあり、『つくたべ』においては野本さんも自身がレズビアンだと気づいていく途上過程なので、この役は当事者が演じなくてはいけないわけではない、という判断をしました」