1月21日(土)、江戸川乱歩の作家デビュー100年を記念し、虚実織り交ぜながら“知られざる江戸川乱歩誕生秘話”を描く土曜ドラマ「探偵ロマンス」(毎週土曜夜10:00-10:50、NHK総合※全4話)が放送開始となる。連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(2021年、NHK総合ほか)の制作チームが手掛けることでも注目を集める同作の放送を前に、制作統括を務める櫻井賢氏、演出担当の安達もじり氏にインタビュー。ドラマ制作の経緯やキャスト起用意図、作品の見どころなどについて聞いた。
“実に人間的”な乱歩と現代人の生きづらさがシンクロ
ーー作家・江戸川乱歩誕生までの物語を描く「探偵ロマンス」ですが、制作までの経緯を教えてください。
櫻井氏:「探偵ロマンス」は今回3、4話の演出担当である大嶋慧介Dが、江戸川乱歩は実は作家デビューする前に私立探偵の事務所の門戸を叩いていたという史実を発見したことから始まった企画です。
乱歩の書いた自伝を読むとわかるのですが、彼は決して最初から偉大だったわけではなく、どちらかというと “本当に駄目な人”です。就職して給料をもらえば放蕩ざんまいし、会社に行くのが嫌になれば、押入れに閉じこもって出社拒否する。
そんなことを繰り返して、30歳でようやく連載デビューをするのですが、当時は印税システムがないので“ページいくら”での支払いなんですね。たくさん書かないと生活できないので、連載をいっぱい引き受けて、構想もないままに書き続けることになる。そして自分で書いているものがあまりにもひどいので、世間に出すのは嫌になって、全てほっぽり出して1年半姿をくらましてしまう。
そういった実に人間的である乱歩に出会っていくうちに、どこか今の若い子たちの生きづらさのようなものと重なる部分があると感じました。そして、そんな乱歩が探偵業を通じて更生していく物語に、彼が見た“時代”みたいな物も入れ込んでいくと、非常に面白い企画になるかもしれないと。
実際には乱歩は探偵事務所で働くには至っておらず、虚実入り混じった物語になっているのですが、今回は、お孫さんである平井憲太郎さんに「自由に祖父を描いてください」と、ご了解をいただいています。乱歩という人自身、自分が書いたものがいろんな形で面白く映像化されることをすごく楽しんでいた人だったので、と背中を押していただきました。
脚本担当は「美しい彼」「HUGっと!プリキュア」の坪田文氏
ーー脚本は「美しい彼」(2022年、MBSほか)、「HUGっと!プリキュア」(2018年、テレビ朝日)などで知られる坪田文さんが担当されています。
櫻井氏:坪田さんは私が連続テレビ小説「マッサン」(2014年、NHK総合ほか)の制作統括をしていた際、脚本協力をしていただいたり、スピンオフ後編「たそがれ好子~女三人寄れば姦(かしま)しい~」(2015年、NHK BSプレミアム)を書いていただいたりなど、昔からご縁があった方です。
すでに民放のゴールデンなどでも大変活躍されていますが、オリジナルのドラマはまだあまり書かれていらっしゃらない。そんな坪田さんに書いていただければ、なかなか作家デビューできなかった乱歩と、何かがシンクロするんじゃないかと。
また、乱歩作品に親しみがあるような上の世代のベテラン作家さんに書いていただくと、これまでの乱歩を描いた作品と変わらないものになってしまう気がしていたのですが、坪田さんであれば今生きることにつらさを感じている若い世代や、息苦しい現代人の気持ちにより乗っかった作品を描いていただけるのではないか、という期待がありました。
決して準備期間が長くはない中で苦労されたと思うのですが、坪田さんにしか書けない、魂が乗り移ったような脚本になっており、非常に手応えを感じています。