そんなサニョンが、長年会ってもいなかった父親の死を知らされ“遺品”とされる古びた赤い髪飾りを受け取った時、その扉は一気に開け放たれ、サニョンの日常に邪悪な存在がなだれ込んでくる。一気にストーリーが核心へと進んでいくスピード感は韓国スリラーの真骨頂。視聴者もここから、悪鬼うごめく世界観へと引きずり込まれていく。
その水先案内人となるのが、大学教授のヘサンだ。はじめはサニョンに「新興宗教ですか?」とうさん臭がられていたヘサンだが、前述の“扉”に関する言葉しかり、「嫌いな人や消えてほしい人が死ぬ。悪鬼は人の欲望を聞き入れて大きくなる」しかり、謎かけのような言葉でサニョンと視聴者を導いていく。やがて、彼自身の過去にも悪鬼との因縁があることが分かっていく。
「人間のほうが、霊よりずっと怖い」
韓国民俗学に基づいて描かれているという本作。1話冒頭で悪鬼に襲われる男性の正体を皮切りに、些細に思えた出来事がもっと大きな事件の引き金になっていたり…と、巧妙な伏線が幾重にも張り巡らされ、新たな驚きを生む。
その中で、登場人物たちが繰り返し問うてくるのが“本当に怖いのは悪鬼か、人間か”という問いだ。悪鬼は、取り憑いた人間の欲望や恨みを聞き入れ、宿り主も知らぬ間に人を死に追いやる。初めにあるのは人間の欲望なのだ。第2話でベテラン刑事がヘサンに諭すように言う「人間のほうが、霊よりずっと怖い」の一言が、発した人間の意図以上の重みを持って迫ってくる。
「二十五、二十一」で明るくへこたれない主人公ナ・ヒドを演じたキム・テリが、悪鬼に立ち向かうサニョンを熱演。サニョンを助け、悪鬼を追うへサン役を「サイコだけど大丈夫」で主人公の兄を演じたオ・ジョンセが演じる。
深まっていく謎を、情熱的なサニョンと冷静なヘサンのタッグで解き明かしていく。一度見始めたらやめられない中毒性あるストーリーと、背筋凍る涼体験が味わえる、この夏注目のオカルト・ミステリーだ。
「悪鬼」は、ディズニープラスのスターで毎週金・土に1話ずつ独占配信中。
◆文=ザテレビジョンドラマ部
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