「先生の前では、石になりたいんです」
お互いの状況にニガ笑いした後、五十嵐は言った。「読者でいてくれる颯も好きだけど、友達になってくれる颯も見たいんだ」。それに対して、颯は「ごめんなさい」と頭を下げた。颯は、五十嵐の小説が大好きだから、自分がかかわる事で彼のインスピレーションに間接的にでも影響を与えてしまったら、“純度100の五十嵐元晴ワールド”ではなくなってしまうから、というのが友達になれない理由らしい。「先生の前では石になりたいんです」と思わず口に出してしまい、五十嵐は、颯の純粋すぎるファン心に思わず笑ってしまった。
「推しの世界に踏みこみたくない」という考えもわからなくはないが、推しの立場からすれば、仲良くなりたいと思ってるのに線を引かれて目も合わなければ話もマトモにできないのでは、疲れてしまう。それに、「自分が推しに影響を与えるかも」と思っているのは、逆に図々しいとも言えるのではないだろうか。自己肯定感が低くて自意識過剰なのが、颯のネックだ。
「僕と友達になって刺激を与えてほしいんだ」
そんな颯に五十嵐は、「誰と会おうが何をしようが、僕が一度吸収したモノは、アウトプットした瞬間、“純度100”のボクのモノになる」と語った。そんなに簡単に独自の世界観が崩れるわけがないのだ。だから、ベストセラー作家なのだ。五十嵐は続けて「だから、颯も安心して読者でいてほしいし、僕と友達になって、刺激を与えてほしいんだ」と告げた。ク
颯は、そう言ってくれた五十嵐を改めて「かっこいい」と思い、“ファン”の垣根を超えて、“友達”になることにした。五十嵐との交流は、颯の世界を広げて大きな刺激になるはずで、彼の成長に良い影響を与えるに違いない。
◆文=鳥居美保/構成=ザテレビジョンドラマ部
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