あくまでストーリーがあって、そのあとに音楽が来る、ということ
――特に難しかった、または苦労した楽曲は?
後半の回想シーンで流れる『アナログ』ですかね。僕自身、音が付く前からあそこのシーンはすごく感動していただけに、登場人物の心情に寄り添っていないとシーンが崩れてしまうと思ったので、いっそう悩みました。
一つには「演技より先に音楽が始まらないように」というポイントがあったと思います。タカハタ監督の思いとしては「音楽で過剰にドラマチックにしたり、過剰に説明させたりしたくない」というのがおそらくあって。先に音楽で感動を表現しちゃうと説明的になり、肝心の演技を置き去りにしてしまいますからそこは注意しました。あくまでストーリーがあって、そのあとに音楽が来る、ということ。一方、曲の終わり方も、壮大に終わるのか、少しずつ収束して終わるべきか…って何パターンか作ったりして時間をかけました。
曲に『アナログ』と名付けた理由は、これが自分にとってメインテーマだったから…かな。自分的に一番感動するシーン、泣きながら作ったシーンだったので、タイトルチューンがふさわしいと思いました。
――また、映画のインスパイアソングとして幾田りらさんの手による楽曲『With』も誕生。そのインストバージョンがエンドロールで使われています。これはどういった経緯で制作されたのでしょうか。
ええと、タイミング的には今年3月かな。撮影が全部終わり、音を付ける作業もある程度終わった頃に「幾田さんに楽曲依頼します」ということになり、そのプロデュースに入りませんかというお話をいただきました。素晴らしいアーティストである幾田さんが(映画を見て)感動し、降りてきたものを曲にして、送って下さったデモを聴いてみたら、すごく素敵な曲で。「これを僕がどうアレンジできるんだろう?」って、そこからまた悩むんですけど(笑)。
映画って、主題歌だけは違う人が作っていたりとか、劇伴担当とは別の人がインスパイアソングを手掛けてることがよくありますよね。今回はそこに、映画全体としての一貫性を持たせることが自分の役目かなという風に認識していました。エンドロールが流れてきたときに、劇伴の続きが『With』である、というようなアプローチにしたくて。ちなみに監督からは、「エンドロールのちょうど二宮さんの名前が流れてきた辺りでAメロに入ってほしい」という、これまた明確なリクエストがありました(笑)。
インスパイアソングっていうのは映画を宣伝・紹介するにあたって耳を引きつけるフックが必要なんですけども、逆にエンドロールではフックとかインパクトは求められていなくて、最後を締め括るにふさわしい曲調に仕上げることが必要です。そこの違いを踏まえて、テンポを変えたり、構成する楽器を変えたりして、試行錯誤しながら両作を編曲するのは自分にとっても大きな経験になりました。
――本当に素敵なエンドロールだと思います。ところで人気のない海のシーンなどは、北野武監督映画との共通点をも感じました。
ああ、それは僕も思いました。タカハタさんはいろんなところにそういうオマージュを入れてますよね。(監督と二宮が初タッグを組んだドラマ)『赤めだか』の落語とかも、セリフのひとふしにさりげなく込めてたりするので、粋だなって思ったり…。愛とリスペクトがあるなぁって。
個人的に好きなシーンは、悟とお母さん(高橋惠子)のシーン。お母さんが言う「人には自分だけの幸せの形がある。それを信じて貫きな」というセリフがすごく刺さりました。終盤への伏線にもなってるんだと思いますけど、すごく良いセリフだなあって。
2023年10月6日(金)全国公開
キャスト=二宮和也、波瑠、桐谷健太、浜野謙太、藤原丈一郎(なにわ男子)、坂井真紀、筒井真理子、宮川大輔、佐津川愛美、鈴木浩介、板谷由夏、高橋惠子、リリー・フランキー
原作=ビートたけし/監督=タカハタ秀太/脚本=港岳彦/音楽=内澤崇仁/インスパイアソング=幾田りら「With」(ソニー・ミュージックエンタテインメント)
公式サイト
https://analog-movie.com/
「アナログ オリジナル・サウンドトラック」
10月4日発売 avex-CLASSICS
収録曲●バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第3番 ラルゴより(opening)/手作りの朝/木曜の彼女 ~出会い~/潮騒/東京手仕事/勇気のきっかけ/ふたりの帰り道 ~今日木曜ですよね~/大阪手仕事/木曜の彼女 ~やきとり~/勇気のきっかけ ~帰って~/ふたりの帰り道 ~ずっと笑ってました~/母の想い/木曜の彼女 ~そば~/サン=サーンス:ピアノ協奏曲 第5番 第1楽章より/みゆきの胸中/夜の海/糸電話/糸電話 ~つなぐ手~/木曜の彼女 ~指輪~/キャンドル/君を胸に抱いて/バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第3番 ラルゴより/途切れた先に/アナログ/途切れた先に ~かすかな音~/糸電話 ~変わらぬ想い~/荒野の果てに/教会で/アナログ ~木曜日~/ドヴォルザーク:4つのロマンティックな小品 第1曲 カヴァティーナ/ふたりの帰り道 International Version/
With End Credit Instrumental Version
うちさわ・たかひと=4人組バンド・andropのボーカル&ギター。2009年12月にアルバム『anew』でデビュー。メジャーデビューから3年で国立代々木競技場第一体育館で単独公演を開催。フェス等にも出演し精力的に活動し、2024年にデビュー15周年を迎える。2023年8月にリリースした通算13枚目のアルバム『gravity』が発売中。また、現在放送中のドラマ「パリピ孔明」(フジテレビ系)にて、上白石萌歌が演じるEIKOの1stアルバム『Dreamer』(11/1リリース)収録曲「Time Capsule」の作詞作曲を担当、アレンジをandropが手掛けている。バンド活動以外にもAimer、上白石萌音、Da-iCE、有華など多くのアーティストに楽曲提供、プロデュースも行っている。
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