宮沢りえが、10月14日に都内で行われた映画「月」公開記念舞台あいさつに磯村勇斗、二階堂ふみ、オダギリジョー、石井裕也監督と共に登壇した。
実際に起きた事件から着想した辺見庸の小説を実写化
本作は、実際に起きた障害者殺傷事件に着想を得た作家・辺見庸の小説「月」を実写化したもの。重度障害者施設で働く元作家・堂島洋子(宮沢)を主人公に、人間が生きる市民社会においてタブーとされる領域の奥深くへと大胆に踏み込んでいく作品となっている。
洋子を「師匠」と呼ぶ夫・昌平をオダギリが、絵の好きな青年さとくんを磯村が、作家志望の陽子を二階堂が演じている。
宮沢は「この映画を企画・プロデュースされていた河村(光庸)さんが撮影の直前にお亡くなられましたけれど、最初にお会いした時、この映画に対する熱意を伺いました。殺伐とした今の世の中、それは日本だけでなく、世界中でいろんなことが起こっていて、そこで生きていくために私自身、保身してしまうことに対してのもどかしさがありました。河村さんのお話を聞かせてもらった時、この作品を通して、そのもどかしさを乗り越えたいという気持ちが湧いてきたんです」と吐露。
「河村さんという核となる存在がいなくなった後、監督、キャスト、スタッフは混乱しました。でも、その魂を受け継いで、絶対にいい作品にしたいという不思議な熱気に満ちていて、すごく背中を押され続けて演じ切ることができました」と、本作への出演を決めた理由と撮影に臨んだ時の気持ちを伝えた。
二階堂「社会を生きる当事者として受け止めていかなければいけない」
この作品に参加した理由を磯村は「企画書と河村プロデューサーからの言葉をいただいて、直感的に『参加しないとダメだな』と思いました。ただ、直感だけではやれないと言いますか、すごく覚悟を持つまで時間がかかりました。それだけエネルギーのある作品でもあり、役柄でもありましたので、すごく慎重に考えて決めました」と答えた。
そして二階堂も「事件が起こった当日のことをすごく覚えていて、企画書をいただいた時に、社会的にも受けた我々も消化できてないものを作品にしていいのか?と、すごく考えさせられました。でも、一番怖いのは、知っているけど徐々に関心が薄れていってしまうこと。簡単に答えは出せないけれど、社会を生きる当事者として受け止めていかなければいけないんじゃないかなって思いまして、この作品に参加して考えたいと思いました」と作品や現実と向き合って決めたと回答。
宮沢「皆さんの記憶にベッタリとこびり付く作品として広がっていってほしい」
オダギリは「皆さんがおっしゃったことが全てだと思いますが」と前置きし、「映画はいろんなタイプがあって、気楽に観れるものもありますし、この作品のように重いものを受け取るものもあります。そういうものも必要だと思いますし、僕は世に問うような、みんなでしっかり考えようよ!っていう映画の方が興味があります。石井さんが向き合って挑戦しようということであれば、乗らないわけにはいかないという気持ちで参加させていただきました」と明かした。
それぞれがいろいろと考え、覚悟を持って参加した「月」。最後は宮沢が「日々生きていく中で、見たくないものとか、聞きたくないこととか、触れたくないもの、そんな箱が世の中にはゴロゴロあって、その蓋を開けることはとてもエネルギーがいることだと思います。その蓋を開けて中のものと向かい合った時、それはポジティブなものではないかもしれないけど、それについて話し合うきっかけになるような映画であってほしいです。皆さんの記憶にベッタリとこびり付く作品として広がっていってほしいなと思います」というメッセージで締め括った。
映画「月」は全国公開中だ。
◆取材・文=田中隆信