思いもかけぬ賢二の言動に、史朗は元カレとの過去を思い出す
史朗は怒らずにいいよと堪えて、思い切って唐揚げにするかと提案する。しかし、賢二は「いいよ、今から揚げ物なんて大変だよ。シロさんお仕事で疲れてるのに。買ってくるよ、玉ねぎ、駅の向こうのスーパーならまだ開いてるから。たまにしか料理しないダンナさんに使う予定だった食材使われちゃうの、ほんとストレスって、俺お客さんからさんざん聞かされてたのに。ほんとごめんね。すぐ戻ってくるからシロさんほかの準備してて。行ってきまーす」とシロさんに反論する隙を与えずにまくしたてると、賢二はさっそうと出かけて行ってしまう。
その後姿を見ながら史朗は元カレ・伸彦との過去を思い出す。伸彦は史朗が夕食に使おうと解凍していたモモ肉を使って食べうえに後片付けもせず、挙げ句に「食費の半分は俺も払ってるんだ。自分も金出してる食材を食うのになんでいちいちお前の許可を取らなきゃいけねーの?」と平然と宣うのだった。
思い出して目に涙を浮かべてしまう史朗。部屋を見ると賢二が畳んでくれた洗濯物や洗濯機のホースなど、知らないうちに賢二の愛がそこかしこに満ちている。史朗は「そっか、今、俺幸せなんだ」と実感して苦笑しながら「あいつ、全っ然タイプじゃないんだけどな」と思う。そして、目に涙を浮かべたまま「鶏モモ、2枚使ってやるか」と独り言を言って笑うのだった。
全然タイプじゃなくても愛情たっぷりの賢二と、それをしっかりと受け止めている史朗。これこそ理想のカップルだと思えて、こちらも温かい涙が込み上げてきた。
◆構成・文=牧島史佳