コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、『アフターメルヘン(上)』(イースト・プレス)から、幸せに暮らしたとされている誰よりも美しい白雪姫がなぜか廃品回収業者を頼る話『おとぎの国の廃品回収業者と大人になった白雪姫の話』をピックアップ。
作者の田島生野さんが12月13日に本作をX(旧Twitter)に投稿したところ反響を呼び、4.3万件を超える「いいね」が寄せられ話題を集めている。この記事では、作者・田島生野さんにインタビューを行い、創作の裏側やこだわりについて語ってもらった。
王子様と幸せになった白雪姫に隠された真実…誰もが予想できないその後に魅了される読者続出
おとぎの国には、役目を終えたモノを依頼主のもとに引き取りに行く仕事“廃品回収”を生業とするある兄弟がいた。兄の名をヤコブ、弟の名をヴィルヘルムという。今日の依頼主は白雪姫だ。毒林檎の眠りから目覚め王子と結ばれて15年が経ち、現在は王城にて一人娘とともに幸せに暮らしているそうだ。
2人は王妃となった白雪姫の大きな城に到着した。世界一の美女に会える喜びを隠せないヴィルヘルムとそんな弟を注意するヤコブ。案内人と城を歩いていると、白雪姫の一人娘のマルガレータに出会った。ヴィルヘルムは落ち着きがなく、マルガレータと遊びに行こうとしてしまう。ヤコブは代わりに謝るが、案内人は「むしろ遊んで差し上げて」と答えた。その答えにヤコブは違和感を感じる。一方、ヴィルヘルムは、蜘蛛の巣に囚われもがく蝶を眺めるマルガレータに声をかけた。彼女は「可哀想で残酷なのにどうしてか見ちゃうの」と話す。ヴィルヘルムが兄受け売りの「美しいものだけでなく、醜いものと表裏一体なのがおとぎの国」の話をすると笑みを浮かべるマルガレータだった。
ヴィルヘルムを残し、ヤコブと案内人は白雪姫のもとへ。ヤコブが、何年経っても美しい彼女に「マルガレータもそっくりで美しく、将来が楽しみだ」と言うと、彼女はそっけなく表情を曇らせた。続けて「お外で一緒に遊ばれたりは」と問う。食い気味に「そんなことする訳ない、肌が荒れる」と答える白雪姫。その様子にヤコブは戸惑いを見せた。2人の会話は本題に入る。彼女は、母親から受け継いだ魔法の鏡を、壊れているから引き取ってほしいと言う。魔法道具が壊れることはなく、実際に状態も良かったため、腑に落ちないヤコブに対して、白雪姫は取り乱す。彼女は「早くその鏡を手放したい。でないとお母様と同じになってしまう」と頭を抱えた。
ヤコブは廃品である魔法の鏡を回収し、ヴィルヘルムと落ち合った。そのとき、マルガレータに対する誰かの怒鳴り声が響く。先方の都合もあり、兄弟はその場を後にした。帰り道、トラックに揺られながらヴィルヘルムは世界一の美女・白雪姫に会えていないことを思い出す。一人で会った兄を責めるが、ヤコブは「お前もう会ってるぞ」と答えた。帰りがけの怒鳴り声の持ち主は誰だったのか、白雪姫と魔法の鏡の真実は何だったのだろうか――。
「めでたし」のその後、“アフターメルヘン”を見定め、不要品を回収し、おとぎの国の美化を図り規律を保つ彼らを人はグリム兄弟と呼ぶ。
慣れ親しんだおとぎ話のまさかの“その後”に「発想力に脱帽」「こんな話誰が思いつくんだ?」「天才かな」「思わず頭を下げた」と読者は驚きを隠せない。「多分この作品前前前世でも好きだった」「どんどん読みたい」「すごい引き込まれた」と反響が止まらない。「物語の美しさと鬱くしさは紙一重」「ダークメルヘン…面白くて綺麗」とストーリーの面白さも話題だが、「絵が素敵」「絵も綺麗」と作者・田島生野さんの絵柄も魅かれる読者も多い。
ゾクゾクする展開に読者が次々とやみつきに 誰もが知るおとぎ話のその後の話を手がける作者・田島生野さんに創作の裏側を伺った
――『おとぎの国の廃品回収業者と大人になった白雪姫の話』を創作したきっかけをお教えください。
大学卒業のため引っ越しをする際、廃品回収の業者さんを呼んで、使わない家具や私物を引き取ってもらったことがあります。その際、パッカー車でその場でずっと使っていた私物がつぶれていく様を見て、「大事に使っていたものへの感謝」と「悲しさ」が同時に押し寄せてきました。「大切だったけどもう使わないもの」を回収する仕事というテーマがその時から何となく頭の中にあり、いろいろな推敲を経て、本作ができました。
――本作に登場するキャラクターへのこだわりがございましたらお教えください。
キャラクターの見た目、特に服装に関してですが、連載させていただいている媒体のマトグロッソさんの読者層も鑑みて、「おとぎの国とはいえ、あまりファンタジーに寄ってデフォルメしたり、過度に華美にしたりせず、あくまでグリム童話が編纂された19世紀初頭以前の実際のデザインを基にすること」と意識しました。
また、いばら姫の回では、「100年間眠り続けていた城」が舞台ということもあり、その国が他国から見て文明や文化が遅れている雰囲気が少しでも出ればと思い、15世紀頃の少し古めかしいデザインのドレスをイメージしています。
――童話をモチーフにした田島生野さんが作り出す世界観に引き込まれてしまいます。ストーリー展開の発想はどのようなところからくるのでしょうか。
童話をモチーフにした話を描くにあたり、まずはグリム童話集を読み込みました。そのなかで、子供の頃は何となく流して読んでいても、大人になってから読むと「よく考えたらこの展開おかしくないか?」という気になり始めた部分や疑問に思う部分がいくつもあることに気付きました。
元々グリム童話は、ドイツを中心とする民話説話をグリム兄弟が収集・編纂したもので、誰か著者が明確な意図をもって展開させたストーリーではないと思うのですが、自分なりに、引っかかった部分に対して「この展開になる意味」を深掘りして考え、その裏にあるかもしれない(あっても不自然ではない)設定を深読みしてストーリーを作っていきました。
――「アフターメルヘン」のお話の中で、特に気に入っているお話やセリフ、シーンなどございましたら、お教えください。
二話のシンデレラの王子が、自分なりの真実の愛について語るシーンです!
童話でよくありがちな、眠っている姫を偶然見つけた王子がその場でキスをしたら姫が目覚めた…というパターンと違い、シンデレラの王子だけ妙に行動力があると思っていたので、その動機を私なりの解釈で漫画にできて良かったと思います。
――今後の展望や目標をお教えください。
上下巻構成なので、まずは何よりも描き切って本作を完結させることです。
そう長い連載ではありませんが、最後までより多くの方に読んでいただき、主人公兄弟をはじめ、本作の世界を好きになってもらえたらと思います。
――最後に楽しみにしている読者やフォロワーさんへメッセージをお願いいたします。
世の中にたくさんの素晴らしい作品がある中から本作をみつけていただき、読んでいただき、好きと言っていただき本当にありがとうございます。
これからもアフターメルヘンの世界を楽しんでいただけるよう誠心誠意作品作りに取り組んで参ります。
頑張って完走しますので、最後まで見守っていただけると嬉しいです…!
『アフターメルヘン(上)』を読む
▼連載先「マトグロッソ」で『アフターメルヘン』を読む▼
https://matogrosso.jp/serial/aftermeruhen_01-159/
▼単行本にまつわる雑記▼
https://matogrosso.jp/serial/aftermeruhen_kokuchi01/
■作者X(旧Twitter):田島生野[@ikunoTJTJ]
■作品公式アカウント:アフターメルヘン[@after_meruhen]