長らくテレビを見ていなかったライター・城戸さんが、TVerで見た番組を独特な視点で語る連載です。今回は『ぶらり途中下車の旅』(毎週土曜朝9:25-10:30、日本テレビ系)をチョイス。
コミュニケーション・サスペンス『ぶらり途中下車の旅』
もちろん知っているけど見たことのないテレビ番組、この連載が始まってから、すっかり見尽くしてしまったのではないかと思っていたのだけど、そうだ、『ぶらり途中下車の旅』があった。誰もが知る有名番組であり、かくいう私も、途中駅でふと下車を決めたとき、「さてと、ぶらり途中下車の旅にでも興じますかな」と必ず発している。それなのに見たことがないというのはまったくけしからん話、ということでTVerで鑑賞してみることに。本日の旅人は、片桐仁だ。
やはり長寿番組は貫禄が違う。私が今回鑑賞した2/3放送回は山手線沿いの街々がテーマなのだが、TVerでの配信タイトルはそのものズバリ『山手線』。しかもサムネイルは、旅人である片桐仁がカメラに向かってピースをしているだけの写真。ストイックというのか、何というのか、この堂々とした立ち居振る舞いには、たとえ相手がテレビ番組であるとしても、思わずあこがれを抱いてしまう。
本編も、やはりストイックな魅力にあふれている。BGMはほとんど無し、聞こえてくるのは、旅人の声と、ナレーターの声と、街の声だけだ。街ブラ番組は街が主役なのだから、余計な装飾はいらない。シンプルであればあるほど、画面に映る街の一挙手一投足にも目がいきやすいというものである。ガチャガチャと装飾が施されていたならば、片桐仁のSuicaの残高が504円であることも見逃していただろう。普通にしていたら気が付かないような細部に目を凝らす、そして発見するというのは、まさに散歩の本質、醍醐味といえるはずだ。
さらに、こういった街ブラ番組には欠かせない魅力。それが地域住民とのコミュニケーションである。この『ぶらり途中下車の旅』は、散歩というよりは、気になったお店や建物に入ってみて、そこで話を聞く、というのが多いようだから、自然と地域住民とのコミュニケーションが増える。性格の悪い見方と言われればそれまでであるけども、人やシチュエーションによっては、「あ、こっちが気を遣ってるなあ」とか「あ、その言い回しはちょっと間違えてないか…?」などとヒヤヒヤする瞬間があったりして、のほほんとした空気の中に、ちょっとしたサスペンスを生み出してくれるのだ。なにも街ブラ番組に限ったことではなく、あらゆるコミュニケーションにはサスペンスがともなっていて、目の前の相手ならばいざ知らず、画面越しに眺めるのであればいささか愉快、というのが私の本音。私は感受性が強いものだから、編集で切られもせずそのまま使われているごく些細なサスペンスポイントにも大袈裟に気を揉むことができるわけだ。
ちょっと語ってしまったが、今回の『ぶらり途中下車の旅』に登場する一般人の方々は皆さん朗らかで良い人ばかりで、あまりヒヤヒヤする瞬間は無かった。しかし、まったく無いとも言いきれない。人によってヒヤヒヤの余地がそれぞれに見つかるかもしれないし、そもそも、まったくサスペンスのないコミュニケーションなど存在しない。コミュニケーションはチャンバラだ。人と人の、生のコミュニケーションを、画面越しに眺められる幸せ。自分が旅人なら、このとき、この人に、何と言うだろう。そういったことを考えながら鑑賞してみるのも楽しいのではないだろうか。