表面的なツンデレは封印して出雲の”揺らぎ”を強調したチューニングに
――『島根啓明結社篇』では出雲のバックボーンが明かされ、キーパーソンとして大活躍でした。芝居面でこれまでとの違いはありましたか?
喜多村 出雲が大きくフィーチャーされるシーズンなので、セリフへの感情の込め具合はもちろん、息遣いひとつを取ってみてもすごく細やかにチューニングしたと思います。これまでって、出雲のお当番回はあっても、彼女の出自や根幹に深く関わるようなセリフやシーンはなかったので、ある意味「『青エク』というエンタメ作品としてちゃんと成立させること」が最優先だったですが、今回は出雲というキャラクターを矛盾なくしっかりと作り上げることが大切だと思ったので、そこは私なりにこだわりました。
――どんなところをこだわりましたか?
喜多村 例えば第3話で、出雲のことを簡単に信用する燐に対して「少しは人の裏側を見るってこと 覚えたら?」というセリフは、これまでの出雲の感覚で演じるのであれば、もっと含みのない、分かりやすいツンデレっぽさを前面に押し出すところなんですけど、この後に控えている展開を考えるとここは変えるべきだと思い、テンションやニュアンスを緩めているんです。
――「緩めて」とは、どんなイメージですか?
喜多村 紐の張り具合で例えると、分かりやすくピーンと張るのって意外と簡単なんです。でも、それをあえてちょっとだけ緩めておくイメージですね。そうすると、その緩みに出雲の気持ちの揺らぎが出るじゃないですか。その微妙な揺らぎを表現したかったので、今回はすべてのセリフでその「張り具合」を意識して調整しているんです。
――かなり繊細な作業ですね。
喜多村 自分のなかに出雲のカラーパレットがあって、そこから選んでいる感覚なので、むしろ「このシーンでは何色を選ぼうか?」っていう表現が近いですね。もちろん、そこは私とスタッフさんとで意見が異なることもあるので、入念に確認しながら作り上げていきました。あと今回はモノローグも多いので、ここは前後のセリフと同じテンションを引き継いだほうがいいのか、それともセリフとは独立して客観視していたほうがいいのかなど、毎回スタッフブースに聞きにいっていましたね。
――とくに終盤は出雲にとってはかなり過酷な展開でした。収録もそうとう大変だったと思います。
喜多村 そうですね。とくに第9、10話などは、一話のなかに喜びや悲しみ、痛みや苦しみなど、ありとあらゆる感情が詰め込まれていて、芝居的にも声帯酷使のオンパレードでした。パターン違いもいくつか収録したので、途中で酸欠気味になって「ちょっとすいません!」ってタイムをお願いしたことも。とにかくこれまで出雲を演じてきた経験のすべて、さらには自分が持っている引き出しのすべてを出し切るつもりで臨みました。収録が終わったときに、岡本君や香菜ちゃんから「良かったよ」と言われた瞬間は本当に嬉しかったですし、私自身も救われた気持ちになりました。
――これから『島根啓明結社篇』の最終話を迎えるタイミングですが、改めてファンに向けてメッセージをお願いします。
喜多村 出雲としては、この『島根啓明結社篇』でかなり救われましたし、満たされたところが多かったと思います。ただその一方で、裏ではほかのキャラクターへの試練も散りばめられている気もしていて、手放しでは喜べないんですよね。とくに雪男は不穏な感じがヒシヒシと伝わってきますし。雪男はそもそも最初からずっと不安定で、これまでもずっとハラハラさせられてきたんですけど、それがついに本格始動かと思うと気になって仕方ないです。まあ、原作ファンなので、今後の成り行きも知っているんですけども(笑)。
――さらなる続編も楽しみになりますね。
喜多村 本当に楽しみです。何年経とうとも、ぜひまた続編を作っていただきたいですし、叶うならばこのメンバーでまたイベントとかもやってみたいです。ぜひ最後まで楽しんでいただいて、できれば引き続きの応援もよろしくお願いします!
■取材・文/岡本大介
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