羅漢は相貌失認だった?
酔っ払って意識を失った羅漢は夢の中で自分の人生を振り返る。幼い頃から人の顔が見分けられなかった羅漢。実際に相貌失認と呼ばれる脳障害がある。おそらく羅漢もそうなのだろう。ゆえに父親から見放された羅漢は、名家の長子でありながら碁と象棋にのめり込んだ。そんな羅漢に唯一理解を示してくれたのが、猫猫の育ての親である叔父の羅門(CV:家中宏)。その羅門から「顔ではなく、声やそぶり、体格で人を覚えるんだよ。お前なら、象棋かな」と言われ、いつしか人の顔が駒に見えるようになった。
そうして成長し、宮廷勤めになった羅漢は、武の才能はないのに家柄のおかげでいきなり長を任される。まるで人を駒のように動かすゲームのように日々をそつなくこなしていた羅漢。だが、どこかで虚しさもあったのではないだろうか。だからこそ、付き合いで訪れた緑青館で妓女に象棋で負かされた時に笑いが止まらなかった。それが、今は緑青館の離れに隔離されている鳳仙(CV:桑島法子)だ。
爪が鳳仙花の赤にうっすらと染まった彼女は、羅漢が顔を認識できるほどに特別な存在だった。しかし、きつい性格ではあったものの、一部の好事家に受けていた鳳仙の値段はどんどん跳ね上がっていく。やがては3ヶ月に1度会うのがやっとになり、そうしているうちに鳳仙の身請話が持ち上がった。
そんな中、勝った方が好きなものを与えられるという条件で羅漢は鳳仙と碁で勝負する。だが、勝負の途中に手が触れた2人。おそらく鳳仙も羅漢のことを思っていたのだろう。成熟した実に触れると種が弾け飛ぶ鳳仙花や片喰のように、2人は互いを求め合った。
羅漢と鳳仙を引き裂いた不幸な出来事
その3ヶ月後、医官だった羅門が皇太后と阿多妃の出産の対応時の責任を負わされて失脚。羅門から可愛がられていた羅漢も父親から家を出て、しばらく遊学するように命じられる。半年ほどで帰れると思っていた。しかし、予想以上に遊学期間が延び、3年経ってようやく羅漢は帰還する。
家に戻ると、鳳仙から送られてきた大量の手紙に気づく羅漢。その一つに小枝のようなものが2つ入っていた。だが、目をよく凝らすと、それは人間の指だった。一つは鳳仙のもの。もう一つは小さな子供の指。すぐに羅漢はその意味を理解し、緑青館へと走った。
しかし、入り口でやり手婆(CV:斉藤貴美子)に追い返される。もう遅かった。鳳仙は羅漢との子を身ごもり、人知れず出産していたのである。身請話は破談となり、店の信用を落とした妓女には夜鷹のごとく客をとるしか道はなかった。結果的に鳳仙は梅毒にかかる。それでも彼女はずっと羅漢を待ち続けていたのではあるまいか。梅毒は末期になると、脳にまで影響を及ぼす。鳳仙は我を失い、最後は“ゆびきりの呪い”にかけたのだろう。幼い我が子の指まで切断して。
猫猫には母親である鳳仙が幼き日の自分にナイフを振りかざす映像が脳裏に焼き付いている。あまりに悲しい末路を辿った猫猫の両親のエピソードに、視聴者からは「羅漢さんの過去が思っていた何倍も壮絶すぎて」「羅門が肉刑に処されたタイミングも、巻き添えに3年間帰ってこれなかったのも不憫すぎる」「不幸な偶然が重なったとはいえ、猫猫母の無残さはやりきれないね」「本当に運が悪かったし、本当に二人とも不器用だけどお互い愛していたからこそ切なくて尊いんだよ」という声が上がった。
また、猫猫が羅漢に身請けさせようとしているのは三姫の梅梅(CV:潘めぐみ)なのだろうか。鳳仙の禿をしていた彼女はおそらく羅漢にずっと前から淡い恋心を抱いていて、猫猫もそれに気づいている。けれど、羅漢には梅梅の顔も駒にしか見えていないのが切ないところ。彼女の思いは報われるのか。そして猫猫との父娘関係は。ついに次週、本作は最終回を迎える。
◆文=苫とり子
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