芸人の枠からはみ出しまくり、絵本や音楽など様々なジャンルで爪痕を残しているくっきー!(野性爆弾)。そんな彼が新たに挑戦したのは、映像配信サービスLeminoで配信されるオリジナルドラマ「呪家」の監督。「呪家」は“ドラマ×大喜利”を掛け合わせた新ジャンルの“ドラマバラエティー”であり、大喜利の奇想天外な回答がドラマのストーリーを左右する。今回のインタビューでは、お笑い界の怪物・くっきー!に、「呪家」誕生秘話や、監督として過ごした撮影期間について語ってもらった。
瑛太さんと佐津川さんの出演が決まったとき、ゾワっとしました
――新機軸な作品「呪家」が誕生するまでの経緯を教えてください。
本決まりする前に、「ドラマを撮ってみませんか?」みたいな話があったんです。こちらとしては、撮れるものなら撮りたいですなぁ、と。「ジャンルはホラーがいいですね」「どうせなら大喜利とくっつけたい」とアイディアを出して、そこから1年ぐらい頓挫したんです(笑)。自分的にも「流れたんやろうな」と思っていたら、突然ポコッと「やることになりました」と頭を出してきて。そこからはえげつなくトントン拍子でしたね。トントン拍子過ぎて、撮影時間は2日。地獄のスケジュールでした(笑)。
――なぜホラーをやりたかったんですか?
楽しいじゃないですか、人が「キャーッ!」って言ってるの(笑)。『リング』の中田秀夫監督を番組で取材させてもらった時に、「ホラーとコメディは似ている。ホラーの打ち合わせは、逆に面白い」と聞いて、それならホラーに大喜利を掛け合わせたらそのままいけるなと。
――大喜利の回答者は千原ジュニアさん、河本準一さん(次長課長)、板倉俊之さん(インパルス)。またドラマ部分の出演者には永山瑛太さんや佐津川愛美さんなど、豪華メンバーが集結しています。このキャスティングの過程は?
大喜利メンバーは吉本の中で「スケジュールが合えばええな」と候補を出したら、合ったのでラッキーでした。役者さんに関しては、こういう時って調子こいて著名な人をいっぱい言うじゃないですか。まさかOKが出るなんて、思ってなかったです。瑛太さんと佐津川さんのOKが出たとき、ゾワっとしましたもん。「これは脚本をちゃんと書かなアカン」と(笑)。
以前、ショートムービーを撮ったことがあるんですが、その時の出演者はガリットチュウの福島(善成)や歩子など芸人ばかりだったので、ちゃんとした台本がないまま撮影したんです。でもホンマもんの方(役者)が来たら、そうはいかんでしょ。「このセリフはどういう感情で言ったらいいんですか?」なんて質問、1番怖いですよ(笑)。実際は聞かれることなく、「そんなにちゃんとやってもらわんでもええのに」というレベルですばらしかったです。
――ドラマの監督経験は、いかがでしたか。
いや、シビれますね。自分の指揮で、全員動き出すじゃないですか。これが国やったら、めちゃめちゃ面白いやろうなって(笑)。でもその分、ヘタ打たれへんというか。「ごめん、やっぱり今の撮り直しますわ」とは言えませんよ、時間もないし。「コイツ、自分の中で決めてきてへんのか」と思われるのも、なんか嫌でしょ。だから何度か妥協していますよ、自分の中で。
――やりたいことをできるのが、監督の特権なのでは?
いや、なかなかね。僕なんてウジ虫監督、ウジ監なんで(笑)。
――監督として1番楽しかったことは?
編集ですね、好き放題できるんで。この作品では、曲も全部オリジナルで作ったんです。今回に限ってですが、曲が多かったり長く流れている回は、「映像が足りなかったんだな」と思ってもらえれば(笑)。
――大喜利パートの撮影はいかがでしたか?
これはもう、ただただ楽しいだけで。カットするのがもったないくらいでしたね。あと怖いのが、第1話の大喜利で言った回答を使われへんのに、第3話の大喜利でその使わなかった答えにかぶせてる、みたいなことがあるんですよね。1話で切ってるからこっちも切らなアカン、逆に使いたいなら1話で残さなきゃだけどなんか変な感じになるな、と。しかも大喜利の答えをかぶせるヤツって、たいてい最初の答えがウケなかったからなんですよ(笑)。そのあたりの編集は、右往左往しましたね。
――撮影中に1番笑ったことは?
やっぱり大喜利です。特に同期の河本は“スベり死なない”というか、スベって心臓が動き出すタイプなんで、オモロかったですね。あと、瑛太さんは「こんな人やったんや」と驚きました。「好きにやってください」と伝えたら、ホンマに好き放題やらはって。1回だけ編集に立ち会ってくれたんですけど、「瑛太さんってこんな感じなんですね」と言ったら、「こんな感じなんですけど、他の現場では2パターン撮って、大体こっち側がカットされます」と言ってました(笑)。今回は、いつもならカットされる側のキャラです。
あと佐津川さん、めちゃめちゃいい顔をするんですよ。瑛太さんと佐津川さんは心霊スポットで配信用の動画を撮る2人という設定なんですけど、撮影していたら節々で佐津川さんの変な声が入っていて。面白かったので、それをくり抜いて他の部分に差し込んでいます(笑)。
理解されすぎたら、怖いかもしれないです
――くっきー!さんはネタの小道具作りや絵本制作など、クリエイティブなジャンルに幅広く挑戦しています。その中で感じる、映像というジャンルの魅力は?
映像系はね、めちゃめちゃ好きなんですよ。見ていて爽快感があるというか、スピード感を出せるというか。コントでは間(ま)をいっぱい取ったりするんですけど、映像はお客さんの笑いが収まるまで待つ必要がないですから、すごく疾走感があると思います。
あと通常じゃないことがいっぱいできる楽しさとか、それこそ(宮川)大介師匠の頭をちっちゃくしたりとか、ああいうのができちゃうんでいいんですよ。スペーシーな映像になりますよね(笑)。
――野性爆弾のネタは最後に沈黙してお客がざわつくまで舞台からハケないという、唯一無二のスタイルです。“普通とは違う”ことにこだわりを持っているのでしょうか?
それはありますね。人と違うことをやりたいとずっと思っていますし、それが当たり前の状態だと思います。芸人ならみんな、そうだと思いますよ。「あの人っぽいな」「あの人もやってた」なんて、絶対言われたくないです。
――ネタで使う自作の小道具もオリジナリティにあふれています。
あれは自分でやっていて楽しいだけですね。別に誰も喜ばん、自分だけのもんです。小道具で犬を作ったら、鼻先が取れるようにしたり。人間の顔の輪切りとか、耳が1つのウサギとか、作っていて楽しい。小道具発信でできるネタも多いんです。
――オリジナルを極めたスタイルに関して、悩んだことは?
ないですね。逆に悩むこと、ないんじゃないですか。好きなことやって、スベろうが関係ないタイプなので。
――「理解されないな」と感じたことは?
多々あります。屁でもねえですけど(笑)。逆に理解されすぎたら、怖いかもしれないですね。