コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、なまくらげさんが描く『蘇生薬で友人を生き返らせた話』をピックアップ。
2024年3月12日にX(旧Twitter)で本作を投稿したところ、3.7万件を超える「いいね」と共に、多くの反響コメントが寄せられた。本記事では、なまくらげさんにインタビューを行い、創作のきっかけや漫画を描く際のこだわりについて語ってもらった。
“蘇生薬”で死んでしまった友人を生き返らせることに成功したのだが…
主人公・椎菜の元に1本の電話が届いた。唯一無二の友人・理依がなくなったという電話だった。
“たったひとりの友達を失うわけにはいかない”
強い孤独を感じた椎菜は、すぐに理依を生き返らせる手段を探し始める。たくさんの本を読みパソコンで情報を集め、徹夜の実験を繰り返して、ついに蘇生薬を完成させた。頑張った甲斐があり、理依の葬儀に間に合った。急いで葬儀会場へ向かい、ざわつく列席者に目もくれず、棺桶を開けて理依の口に蘇生薬を流し入れる。すると、その場で理依が目を覚ました。
理依は検査のため入院し、病室で会話する2人。特に検査結果に異常がなかったことを知った椎菜は「よかった」と安堵したのだが、理依の口から驚くべき言葉が飛び出した。
「どうしてそのまま死なせてくれなかったの?」
続けて、理依は自殺したことを話し始めた。椎菜は理依の死んだ理由が“自殺”だったことは知らなかったし、そんな素振りもなかったため驚いた。しかし、理依には日々の中に生き続けるのがつらい理由があったのだ。そして、「私の中で決まったことなの。ほっといてくれたら嬉しいな」と話し、数日後に理依は再び命を絶ってしまう。
理依を安易に生き返らせ、二度も自殺させてしまったことに苦しむ椎菜は、その後、医師たちから蘇生薬の公開を求められる。しかし、理依の想いを知り“人には他人を生き返らせる権利があるのか”という思いが渦巻いていた。一方で、蘇生薬は世のためにもなると考えた椎菜は、作り方を開示するにあたり、ある条件を提示したのだった――。
本作には「面白かったです!」とストーリーに引き込まれた読者からのコメントをはじめ、「死ぬ権利は誰にでもあって」「死にたいと思わない世の中になればいい」など死生観についての考えをコメントする読者も続出した。
作者・なまくらげさん「自分の手を離れて悪い方向に広がってしまう懸念もありました」
――『蘇生薬で友人を生き返らせた話』を創作したきっかけや理由などをお教えください。
基本的に死ぬことは良くないことだと思いつつも、この世から消え去りたいと考える方も一定数いらっしゃる中で、そのような方の気持ちは尊重されるべきか否かという問いが自分の中にありました。
そこで、ファンタジーでよくある蘇生薬を現実に仮定したら、そういったギャップについて解像度が上がるのではないかと思い至り、今回の話を考えました。
――理依が初めて椎菜に話しかけてくるシーンで、椎菜は“高校でも孤独なままだろう”という予想を「期待」と表現しているのが気になりました。一般的に、学校生活での孤独は“寂しい”と感じる人も多いと思いますが、椎菜にとっては孤独を望む気持ちがあったのでしょうか。
言ってしまえば強がりのようなものだと思います。
孤独な中で寂しさを感じ続けてしまうと理想とのギャップで心が苦しくなってしまいますので、「むしろ独りの方が気楽でいいや」という考えに無意識ながら切り替えていたのかもしれません。
実際独りでもある程度は平気な子だったのでしょうけども、どこかで寂しさを感じていたのも事実で、ご指摘の「期待」は理依の登場によって否定されることとなりました。
――本作は“死ぬ権利”について考えさせられるお話でした。X(旧Twitter)へのコメントでも様々な感想を寄せる読者がたくさんいました。今回の反響をどのように感じていらっしゃいますか?
いつも作品を作る際、設定したテーマについて読者の方にも考えて頂けたらという気持ちで描いているので、多くの方に感想を頂けてありがたい限りです。
今回は少しナイーブなテーマだったこともあり、自分の手を離れて悪い方向に広がってしまう懸念もありましたがそんな事はなく、死生観について真面目に向き合って下さる方が多くいらして嬉しく思いました。
――ストーリーの最後、臓器提供意思表示カード(ドナーカード)のような蘇生薬の使用希望を記載するカードが出てきました。なまくらげさんが、もしも椎菜と同じ世界に生きていたとしたらどのような希望をしますか?
今のところは幸いまだ生きていたいと思えているので、不慮の事故などであれば生き返らせて頂けたら嬉しいですね。
反面、生物としての寿命や、理依のような最期を迎える時が来たなら自然にそのまま逝かせて欲しいかなと思います。
――最後に、なまくらげさんのお名前をはじめ、作中にも“くらげ”が登場していますが、“くらげ”への思い入れをお聞かせいただけますでしょうか。
学生時代にくらげというあだ名で呼ばれていたのがハンドルネームの元になっています。
個人的に生き物としても気に入っているので、何気ないデザインをする際のモチーフとしてよく使っていますね。
また、クラゲは独特の生活環からしばしばその不死性について語られますが、奇しくも私の関心テーマである死生観に通じるところがあり、不思議な縁を感じています。