コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、『ヒル』や『クロエの流儀』などを描く今井大輔さんのSF短編集『セツナフリック』から『ラッキーポイント』をピックアップ。
2023年10月27日にX(旧Twitter)で本作を投稿したところ、6.7万件を超える「いいね」とともに多くの反響コメントが寄せられた。本記事では、作者の今井大輔さんにインタビューを行い、創作のきっかけや漫画を描く際のこだわりについて語ってもらった。
毎週更新される運勢ポイントを自分の意思で使える世界
この世界では、運が科学で数値化され、毎週更新される運勢ポイントを自分の意思で使うことができる。例えば会社へ遅刻しそうになったとき、ポイントを使うと“電車が少し遅れてきて乗りたい時間に乗車できたことで遅刻を回避した”というような運が働いたりする。しかし、残りのポイントが一定数を下回ると不運になってしまうため、使い過ぎには注意が必要だ。
主人公の坂下は会社員。そして、今日は大事な企画会議の日だ。今週は運勢ポイントが平均より多めに与えられていたため、企画会議成功のために、不運にはならない範囲で使えるだけのポイントを投入する予定でいる。
しかし、出社して会議の準備をしている中、部下が作ってくれた大切なデータが破損してしまう。“今週の私の運は悪くないはずなのに…”そう思っていた坂下のところに、今回の会議のライバルである杉本が近づいてきて、自分のスマホに表示された運勢ポイントを見せてきた。坂下のポイントよりはるかに多い数値だった。そして、坂下が使おうと思っていたポイントよりも高いポイントをすでに投入していたのだ。
運が結果を大きく左右する世界で、この状況は致命的。坂下は杉本が大量の運を使ったと知り、会議が始まる前から負けを覚悟し始めていた…。そこへデータを作った部下の高瀬がやってきて“家に元のデータがあるから取りに行きましょう”と提案する。
坂下を上司として慕い、女性としても好意を持っている高瀬はデータを取りに向かう車内で坂下を励ましていた。そして、“運が全てではない”ということを伝えたのだ。
部下の言葉に心を奮い立たせた坂下は、後の不運を顧みず、残りの運勢ポイントを全部使って、企画会議の成功にかけた。そして、部下の高瀬と力を合わせて企画会議に臨むのだった――。
投稿を読んだ読者からは、「運を数値化っておもしろい発想だなぁ」「世界観が好き」といった声と共に、企画会議の結果が明かされていないラストに「結果気になる」というコメントも寄せられた。
作者・今井大輔さん「作品の制作時期から時間がたっても、読む人が初めて出会ったら新作」
――本作の“運が数値化された世界”というのは、どのようにして思いついたのでしょうか?
正直ちゃんと覚えてないのですが、アイディアを出す時は担当編集さんとの打ち合わせ中、雑談しながら頭の中でワードを拾って、つなげて、思いつくことが多いです。
その時も雑談に運や占いの話が出たんだと思います。
――作品の世界のように、運を自分の意思で使えるとしたら、今井さんは何に使いたいと思いますか?
僕はひねくれてるので…週1でその週の運が決まる設定なので、週の初め、運が支給される前のタイミングにたくさんの運を投入したらどうなるだろう?と、質問を見た瞬間に思いました。
そうですね…お昼ご飯は外で食べることが多いので、毎日運を使って知らないお店に入ります!
――本作が収録されている『セツナフリック』はSF短編漫画です。SF作品のアイディアをいくつも考えるのは大変かと思うのですが、日々、新しいストーリーを思いつくために心掛けていることなどはあるのでしょうか?
『セツナフリック』は、もともと何か連載をやろうということで、5つくらいアイディア持ってったら、少し驚かれて、「全部やりましょう!」ということで短編集になりました。たぶん、アイディアを出すのは得意な方です。
コツとかはわからないんですが「情報を雑に吸収する」ということはしてます。広く浅く、ちゃんと答えまで調べない雑な知識って想像が入り込む隙間がいっぱいあって、アイディアの種になりやすい気がします。
アイディアって、ありそうな嘘、ちょっとズレた視点、みたいなものだと思うので。
――X(旧Twitter)の投稿には、多くの“いいね”やコメントが寄せられていました。今回の反響をどのように受け止めていらっしゃいますか?
うれしいです。
作品の制作時期から時間がたっても、読む人が初めて出会ったら新作で、マンガが「古い」か「新しい」かは、楽しんでもらうために関係ないという、元からあった考えに自信が持てます。
――漫画家として、今後の展望・目標をお教えください。
漫画家とはこうあるべき、みたいなものをなるべく背負わないでやっていきたいと思ってます。
哲学とかあまりないので…。楽しくやれて、ちゃんとお金稼げて生活できるなら、何屋さんになってもいいです。
ただ、現状の漫画屋さんとしては、原稿料を払って連載させてくれる人達、お金と時間を払ってマンガを読んでくれる人たち、そんな風に僕に投資してくれた人たちが笑顔になれるようにというのは、1話1話、毎回の目標です。
――最後に、本作を読んだ読者へ『セツナフリック』に収録されている他作品の魅力をお教えください。
今回の1話を気に入ってくれた人なら、短編集『セツナフリック』に収録されてる他の作品も、きっと気に入ってもらえると思います。
個人的にも『セツナフリック』は、漫画家としてある程度の力をつけた上で、やりたいことをしっかり形にした1冊なので、漫画家今井大輔を知らない人に自己紹介としてまずお勧めしたい1冊です。
少し不思議な世界観に、少し切ない感情を添えました。
ぜひ、読んでほしいです。