60点で無個性ってそれはもう、居ても居なくて同じってこと!?と反抗期の私はかなり思い悩んだ。いや、いじけていた。中学生までの私は、それからのレコーディングで「怖い。怒られるかもしれない。上手に歌えてないかもしれない。今の歌い方って個性あったかな? あれ、個性ってなんだろう」という気持ちが先行してしまった。
こうして段々と歌うことに対して臆病になっていった私は、努力と成長速度が合わず、堪え性のない小学生から中学生の間で「どうせ」というネガティブなワードを頻繁に使うようになる。
「どうせ、やったって60点だもん。どうせ、無個性って言われちゃう」。
この言葉を言い始めたあたりから、当時のファンの方からの「なんか日向ってパッとしなくて普通なんだよなぁ。面白みに欠ける」というコメントが目につくようになってしまい、気がつけば、自力で這い上がることができなくなっていた。
そのまま高校生に突入し、歌はもう無理かもと少し離れたのち、初めてのミュージカルで歌い方がアイドルすぎると指摘されたときにビビッときた。
「これがもしかしたら個性ってやつなのかもしれない」。
これまで個性がないと思っていた歌い方が、「アイドルっぽい歌い方」という個性なのだとしたら、ここを基盤にすれば色々な引き出しを見つけられるかもしれないと気づけた瞬間だった。
そうして色々なコンテンツで歌わせていただく機会が徐々に増えれば増えるほど、なぜか歌と向き合うことが"怖い"ではなく"お芝居みたいで面白い"という感覚に変わっていった。トラウマが完全に消えたわけではないが、今ではレコーディングやライブで歌と向き合う時間が、大好きだ。
いつから怖いと思わなくなったのだろうか。いつからレコーディングブースに入ると新しい自分に出会える場所みたいでワクワクするようになったのだろうか。
本当に気がつけば、だった。
分かることは、私1人では絶対に這い上がることができなかったということ。これまで歌を通して演じさせてもらってきたキャラクターたちみんなが私に様々な歌のジャンルで、角度で、手を差し伸べてくれた。
演じさせてもらっている子全員等しく愛おしいし、任せていただいているからこそみんなの良いところや聴いていて癖になる歌い方、印象に残る言い回しを生み出せるのは自分しかいないんだ、と責任を持ってこれからもレコーディングブースに私は入る。
レコーディングは私にとって、演じている子と共に巡る冒険だ。そして私自身に個性がなくたって、役と向き合えば自ずとその役の色が生まれるーー。これがかなり遠回りをして見つけた私らしさだ。
元々私のスタート地点は他の人よりも後ろにあるのだ。これからもたくさんの言葉のかけらを拾いながらゆっくりと、でも自分の中での全速力で前に進んでいきたい。
佐藤日向エッセイ連載「わたしことば」、ご愛読ありがとうございました。
佐藤日向プロフィール
さとう・ひなた●12月23日、新潟県生まれ。2010年12月~2014年3月、アイドルユニット「さくら学院」のメンバーとして活動。卒業後、声優としての活動をスタート。主な出演作に『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(星見純那役)、『ラブライブ!サンシャイン‼︎』(鹿角理亞役)、『D4DJ』(福島ノア役)、『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』(暁山瑞希役)、『ウマ娘 プリティーダービー』(ケイエスミラクル役)など。ニコニコチャンネル「佐藤さん家の日向ちゃん」毎月1回生配信中。公式SNS
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