上杉謙信、武田信玄…歴史的カリスマを怪演
若い頃に舞台で培った演技力が、そんな彼の活躍を支えている。1993年以降、毎年のようにつかこうへいさん演出の舞台に立ち、2000年代になると蜷川幸雄さん演出の舞台や彩の国シェイクスピアシリーズにコンスタントに出演して研鑽を積んできた。
個性的なキャラクターが注目を集めがちだが、コメディー要素のない役柄でもその存在感は圧倒的だ。大河ドラマ「天地人」(2009年、NHK総合ほか)で演じた上杉謙信や「どうする家康」(2023年、NHK総合ほか)の武田信玄など、ひとにらみで相手を黙らせ震え上がらせるカリスマが特にハマり役で、「坂の上の雲」(2009-2011年、NHK総合ほか)では厳格な陸軍大将・秋山好古(あきやま・よしふる)を堂々たる佇まいで演じた。
吹替なしでドラム演奏 撮影前に3カ月特訓
あらためて振り返ると、硬軟自在でその振り幅に驚かされる。加えてキャリア35年を超える今、あくなきチャレンジ精神でもファンを魅了している。「VIVANT」でモンゴル語のセリフに挑んだことも記憶に新しいが、主演映画「異動辞令は音楽隊!」では、吹替なしで華麗なドラム演奏まで披露しているのだ。
「異動辞令は音楽隊!」で阿部が演じたのは、捜査一課の“鬼刑事”・成瀬。刑事畑一筋30年、コンプライアンスが重視される今の時代にそぐわない違法すれすれの捜査で組織から煙たがられていた成瀬は、とうとう警察音楽隊に異動させられてしまう。担当することになったドラムは触ったこともない。はじめは「なんで俺が…」といら立っていた成瀬だが、隊員たちと触れ合う中で少しずつ心境に変化が現れ始める。
大柄でコワモテの成瀬がムスッとした顔で、体を縮こめるようにしてこわごわドラムをたたき始める姿がなんともかわいらしい。それがキャラクターの成長とともにドラム演奏も上達し、クライマックスの演奏シーンでは別人のように明るい表情で、カッコよく軽快にスティックを操っている。
劇中でのドラム演奏シーンはすべて吹替なしというから驚きだ。阿部自身はドラム未経験で、撮影前に3カ月ほど特訓したという。完成披露試写会で「成瀬にとっても楽器は挑戦だから、自分も一緒に挑戦していけばいいかなと思いました」と、出演を決めた理由を語っていた。ベテランと呼ばれる年齢になっても努力をいとわず新たな挑戦を自ら積極的に選びとっていく阿部のカッコよさにしびれる。
男前なルックスにユーモラスな人物造形、そしてキャリアを重ねても変わらないチャレンジ精神…。阿部と彼の演じるキャラクターは、どの面をとっても愛される理由に満ちている。還暦を迎えても年齢に囚われることなく愛すべきキャラクターを体現し続ける彼は、今後どんなキャラクターで新たな魅力を見せてくれるのだろうか。
◆文=ザテレビジョンドラマ部