カテゴライズするなら「おとなしい芸人」
――芸人になってからのエピソードも満載です。「笑って欲しくてネタを書く」は、秋山さんがネタやエッセイをどのように書いているのかがわかる内容ですね。
ある朝、「今日1日のことを書いてみよう」とふと思い立ち、北海道でライブがある日に移動の乗り物の中や、楽屋などで書いたものなんです。普段から、コントやエッセイのネタになりそうなキーワードをスマホのメモに書いておくのですが、それを眺めながら、ああでもないこうでもないと頭を悩ませている内容です。ちょうどその日、飛行機が遅延してくれたおかげで、書くネタが増えて嬉しかった記憶があります。
――メモには「菊田」のフォルダも! そしてそれにまつわる話もちゃんと入れられていて、ハナコファンならずともニヤッとしてしまいます。
「菊田」メモに入れているのはごく一部。メモに書かなくても覚えられる面白いエピソードがいっぱいあるんです。彼が何かやらかしていても、あえて泳がしておきますね。僕に注意されるのも嫌でしょうし、なんなら、もっと大きなところで怒られてほしいですから(笑)。
「岡部」メモもありますよ。ちなみに直近だと「電話の声がちっちゃい。さすがにその声じゃ高性能のスマホでも拾えないだろう」と書いていました。メンバーたちの言動を注意深く観察しているわけではないけれど、コントのネタになるかもしれないな、くらいの気持ちでメモを取るようにしていますね。
――「ご期待下さいと言ってみる」では、「ハナコのコントを見て死ぬのをやめた」というファンレターをもらったことがつづられています。
人前に立つのが苦手な僕ですが、それでも人前に立ったからこそ、そういった感想や反響をもらえる。ご褒美をもらえた気がしてすごく嬉しいです。でもね、やっぱり自信はないんですよ。ハナコの単独ライブとかも、「お客さん、来てくれるのかな?」と心配だし、このエッセイも「自分のことばかり書いていいのかな」「つまらなくないかな」といつも思っていたし。出版イベントのチケットも売れるか不安でした。「売り切れました」と言われたときは、「いや、埋まったんかいっ!」と、漫才みたいにツッコんでしまったほど(笑)。
――そんなに引っ込み思案なのに成立するお笑い芸人という職業は奥深いですね。
ここ数年でだいぶ「芸人には暗い人も意外といる」「人見知り芸人も多いらしい」といったことが認知されてきたと思います。今後はさらに細分化されていくんじゃないかと思います。僕もエッセイを書きながら、自分をカテゴライズするなら何だろうと考えてみました。一瞬、「ネクラ芸人」と思ったけれど、又吉(直樹)さんのようにボソッと言うのが面白い人とはちょっと違う。
そのときふと「おとなしい芸人」かもしれないと思ったんです。ひな壇でワーッとしゃべっている芸人の中に、「俺も!俺も!」と参加していくことがなかなかできない。思えば、学校のクラスでも親戚内でもそうだったな、と。昔から輪の外にいるタイプだったんです。このエッセイを書いたことで気付きました。自分を深く知れた気がしています。
――最後に、今後もまたエッセイを書きたいですか?
ぜひ書きたいですね。書いていいと言ってもらえるなら(笑)。僕の周りには、なぜかキャラクターの濃いユニークな人が集まってくるんです。メンバーはもちろん芸人仲間や昔の知り合いなど、ネタは尽きそうにありません。これからもスマホのメモに面白エピソードを書いて準備しておこうと思います。
◆取材・文/高倉ゆこ
撮影/後藤利江
この記事はWEBザテレビジョン編集部が制作しています。
作品名:人前に立つのは苦手だけど
著者名:秋山寛貴
発売⽇:2024年7⽉3⽇
※電子書籍同時発売【電子版限定特典「あとがき」付き】