反町隆史&竹野内豊というビッグネームがタッグを組んだ、伝説的ドラマ「ビーチボーイズ」。名前のとおり夏の海が舞台の同作は、人生に疲れ切っていた2人の男を主人公とした1997年放送の月9ドラマだ。だが数々の大ヒットを生んできた月9ドラマとしては、異彩を放っていることでも有名。熱くてビターな“大人の男の友情”を描いた同作が、なぜ異色と呼ばれるのかに迫る。
日本の夏を熱くした傑作「ビーチボーイズ」
ビーチボーイズは、1997年の夏を熱くした名作だ。その要因の1つとして挙げられるのは、W主演を務めた反町隆史と竹野内豊という豪華なキャストにある。反町は同ドラマが放映される直前に放送された1997年1月期の月9ドラマ「バージンロード」にて、和久井映見とともにW主演を務めて話題を呼んだばかり。鍛え上げられた肉体と長い手足、そしてワイルドで端正なルックスが見る者を惹きつける。
片やもう1人の主演である竹野内も、1996年の月9ドラマ「ロングバケーション」に出演した“時の人”。モデルとして活躍していた竹野内もスタイルが良く、反町とは逆方向の紳士的な甘いマスクが特徴だ。また後年にはアニメ映画「リトルプリンス 星の王子さまと私」に声優として出演するほど、“声がイイ”俳優でもある。同ドラマはそんな話題性と魅力にあふれた2人のW主演とあって、発表当時から視聴者の期待を集めていた。
また脇を固める面々も話題性抜群。ドラマ放送の3カ月前に「MajiでKoiする5秒前」「大スキ!」で大ヒットした広末良子をはじめ、マイク眞木、稲森いずみといった豪華出演者が顔をそろえた。
爽やかな海、良い男が2人。ヒットの要素がふんだんに詰め込まれた夏の月9ドラマだが、実はかなり異色の存在でもある。その理由は、ストーリーの構成を見ればよくわかるはずだ。
1990年代の月9ドラマといえば、「東京ラブストーリー」「101回目のプロポーズ」「あすなろ白書」「ロングバケーション」といった空前の大ヒットを飛ばした“ラブストーリー”が代名詞といっても過言ではない。男女の成長と甘酸っぱい恋、劇的な愛の物語がほとんどを占める。
しかし「ビーチボーイズ」は違う。夏が舞台の爽やかな同作では、普通に生きていたら出会うはずのなかった正反対な性格の2人が友情を深めていく“男の友情”物語。もちろんイケてる男同士なのでそれぞれに恋のエッセンスもあるが、根幹にあるテーマは“ひと夏のなかで成長する男たち”といえるだろう。
反町が演じるのは女遊びに明け暮れ、挙げ句の果てには捨てられて行き場を失ってしまう桜井広海。そして竹野内が演じるのは大企業勤務の身ながらミスを犯してプロジェクトを潰してしまい、仕事から外されてしまった鈴木海都。遊び人と仕事人間…見事に正反対な2人が、ある夏にそれぞれの人生観を変える出会いを果たす。
お調子者なチャラ男と不器用な男が“男の友情”を深めていく
桜井広海と鈴木海都。正反対ながら“海”の漢字を名前に持つ2人が出会うのは、広海が車のガス欠を起こして立ち往生していたときだった。タクシーで民宿に向かう途中、困り果てた広海を見つけた海都が手を貸したのがきっかけだ。
2人は自分の人生を見つめ直すべく、寂れた海辺の民宿「ダイヤモンドヘッド」へ向かう途中だった。仕事がうまくいかず挫折した海都と、失恋によって虚無感を抱えた広海。真逆の性格を持つ2人だったが、ダイヤモンドヘッドで時間をともにするにつれて友情が深まっていく。
象徴的なのは広海の自由奔放な性格に触れ、会社での栄達に囚われ過ぎていたと気づく海都の行動だ。会社を辞めると一大決心をした海都に、広海は言う。「あんたさ、後悔してないの?将来棒に振ってさ」チャラく見えるが、実は繊細な広海。海都のことを思っての言葉に、海都は「するかもねー後悔。あとでさ」と素直に不安を口にする。心配そうに見つめる広海だったが、海都は爽やかな笑顔で「それも楽しいじゃん」と告げるのだった。
さらに海都の言葉は続く。「そんときはあんたを恨むよ。あのとき車を助けたりしなかったらってさ。ぜーんぶあんたのせいにするよ」そう笑う海都に、広海は「たまんないね~!」となにより嬉しそうな笑顔を浮かべるのだ。
海の香りまでただよってきそうな、爽やかで痛快なワンシーン。男同士ならではの気安いやり取りながら、言葉からわずかに見える強い信頼感がたまらない。正反対だといがみあっていた2人が胸襟を開き、裸の心で会話できるようになった瞬間だった。
また同ドラマではBGMだけが流れて、セリフがないシーンの多さも特徴の1つ。綺麗な海、“良い男”が2人、心に残る夏の風景…セリフがないからこそ、それぞれのパワーを最大限に引き出せているように思う。
現代のイケオジ代表として名前が上がる反町と竹野内。そんな2人のフレッシュな魅力を存分に楽しめる「ビーチボーイズ」は、夏が来るたびに楽しみたくなる作品だ。「夏らしい」というだけでなく、悩みを抱える人の背中をそっと押すような一歩ずつ進む展開もいい。
同作は2023年7月に待望のBlu-ray BOXが発売されている。本編12話に加え、それぞれの道を歩むことを決めた“最終回の後”を描くスペシャルドラマも収録。さらにサイパンで撮影したというオープニング映像の「SPECIAL EDITION」、「サイパンロケ他メイキング映像」といった豪華な特典映像も楽しめる。
海へ出かけたくなる“夏の定番”作品として、今後も永く親しまれるに違いない。
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