コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョンマンガ部」。今回は、主人公が薬や愛に溺れていく姿を描いた漫画『魔法が使えなくなっても』第1巻をピックアップ。作者である漫画家の脳震盪ほしさんが、2024年7月15日に本作をX(旧Twitter)に投稿したところ、3.9万件を超える「いいね」や反響が多数寄せられた。本記事では脳震盪ほしさんにインタビューを行い、創作の裏側やこだわりについて語ってもらった。
空虚な人生を送る少年と薬の売人の闇…
「疲れたね」ひまわり畑を横目に話しながら歩いているのは、普通に生きられないで傷つき続けてきた矢野と、儚くも危険な雰囲気が漂う石川。2人はコンビニに入り、お酒のコーナーで何を買うか選び始める。
石川は饒舌だ。「矢野さんと会えてよかったな。いっぱい楽しいことしよ」「ねぇいなくなったりしないでよ」「いなくなるなら死んじゃうから。なんてね」と矢野に向かって話す言葉は、冗談とは思えないくらいに張り詰めていた。
コンビニを出ると、駐車場で蝉が死んでいるのを見つけた矢野。暗い過去を思い出す。小学校の頃、生き物を殺すのがやめられなかった矢野。「殺す時とても気持ちが良くなる」「やめたいのにやめられない」と、どんどん歯止めが効かなくなっていったという。
当初は受け入れて優しく接してくれていた母だったが、矢野が学校のニワトリを殺してしまったことをきっかけに亀裂が入る。誰も受け入れてくれない人生を送る矢野は、それでも“周りの真似”をして大人になった。誰も彼も矢野から離れていく日々のなか、出会ったのが石川だ。
どこか妖しげな雰囲気を持つ優しい顔の石川。彼の家に招かれた矢野は、そこから深い闇にハマっていく…。この物語を最後まで読んだ人たちからは、「考えさせられる」「本当の幸せってなんだろうね」「もっと読みたい…」「心が揺さぶられた」など反響の声が寄せられている。
生々しくつらい体験をしている登場人物たち
――『魔法が使えなくなっても』を創作したきっかけや理由があればお教えください。
漫画を描くことが存在意義なので常に漫画は描いているのですが、今回は人間の苦悩や愛、絆、裏切り、そして希望や絶望や光がごちゃ混ぜになった感情の強い漫画を描きたい。そういうもので人の心に爪痕を残したい。と思い、この漫画を描き始めました。
――本作を描いたうえで「こだわった点」あるいは「ここに注目してほしい!」というポイントがあればお教えください。
人の心の動きを嘘偽りなく描くということにこだわりました。漫画のキャラクターは、読者にとらえてもらいやすいように、顔だけでなく性格も、無駄を削り特徴を出しデフォルメするものだと思うのですが、今回は人が生きている上で生まれる葛藤や矛盾を余すことなく描きたいと思ったので、あえてデフォルメをしませんでした。その辺りに注目していただきたいです。
――特に気に入っているシーンやセリフがあれば、理由と共にお教えください。
冒頭のコンビニで石川が矢野に「いなくなったら死んじゃうから」と言っているシーンです。最後まで読んだ後に、二周目でもう一度見てもらえるだろうか?その瞬間を切り取るにはどこがよいだろう?とずっと考えて描いたシーンで、思いが強いからです。
――普段作品のストーリーはどのようなところから着想を得ているのでしょうか。
自分が体験したことから着想を得ています。きらめいている思い出を形にしておきたいと思って筆を走らせたりします。体験したかったなあ、という後悔や未練、妄想から描くこともあります。
――本作に登場する人物の表情は、どこか影があるように感じます。作画の際にこだわっていることや、特に意識していることはありますか。
みんな生々しくつらい体験をしており、そのせいで目が死んでいます。アルカイックスマイルです。
――今後の展望や目標をお教えください。
細く永く漫画を描きたいなと思っています。自分が死んだときに棺に入れてもらいたいと思える漫画を描き続けることが目標です。今よりもっと多くの方に漫画を見てもらえることがあったら、これ以上ないほどに幸せです。
――作品を楽しみにしている読者へメッセージをお願いします!
インターネットの大海から私の作品を見つけてくださってありがとうございます。これからも命を削りながら作品を描くので、どうかよろしくお願いします。今回の記事で知ってくださった方も、よろしければ漫画を読んでみてくださると嬉しいです。