コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、高齢女性が病により、自分のことまでどんどんわからなくなる恐ろしさをリアルに描いた『欠ける月』(ジーオーティー)をピックアップ。
作者の冬虫カイコさんが8月9日に本作をX(旧Twitter)に投稿したところ反響を呼び、5万件を超える「いいね」が寄せられ話題を集めている。この記事では、作者・冬虫カイコさんにインタビューを行い、創作の裏側やこだわりについて語ってもらった。
だんだんわからなくなっていく恐怖…「他人事じゃない」と反響
主人公は望月さく・69歳。夫を早くに亡くして一人暮らしをしている。趣味はラジオを聞くことで、俳句サークルにも入っている。俳句サークルは公民館の会議室を借りて2週間に一度集まる。
この日は、2か月ぶりに俳句サークルに出かけようと外に出た。しばらく風邪をひいていた彼女にとっては久しぶりの外だった。外に出ると、近所に住む朝日さんと出会った。彼女は赤ちゃんを抱えている。「今日はどちらに?」と聞かれたので「俳句サークルよ!」と答える。他愛ない会話を交わして、さくはその場を後にした。朝日さんは俳句サークルは金曜日ではなかったのか…と疑問が残った。
さくが公民館に行くと、職員の方に「集まりは明日でしょうよ、今日は木曜日だよ」と声をかけられた。翌日のサークルの際にその話をすると、サークル仲間に「ただでさえおとぼけなんだから気をつけなさいよ」と言われ、笑い話となった。
そこで、冬の句会の申込書を渡された。そのとき、さくは自分の名前が書けなかった。「望」の字がよくわからなくなってしまった。家に帰り、望月さくの名前をノートに練習する。頭が混乱してくるが、漢字のド忘れってたまにしちゃうのよね、最近文字を書かなかったのがよくないと思った。次のサークルは7日の金曜日、15時から。大丈夫…。
7日金曜日、15時。公民館に向かうと、サークル仲間に出くわした。「あなた来ないから心配してたのよ!」と言われる。さくは「だって15時からって…ラジオでもうすぐ5時ですって言ってたから急いで出てきたの…」と話す。時計は17時を指していた。
「今日は帰ってゆっくりした方が良い」とサークル仲間に言われ、帰宅するものの前で立ちつくしてしまう。そこで朝日さんに「どうされたんですか?おうちの前で…」と声をかけられた。するとさくは、「21日の金曜日っていつかわかる?次の集まりの日なの…遅れたくないのよ、今日はちょっと…遅くなってしまったから」と矢継ぎ早に話し始めた。朝日さんは焦って「大丈夫ですか?」と問う。さくは「早く教えてよ‼21日の金曜日‼‼」と大声で叫んだ。そんなさくに驚いたものの「寝て起きたらカレンダーに1つずつばつをつけてみるとか…」と提案する朝日さん。さくは我に返ってとぼとぼと家に入った。
「ねておきたらひとつずつバツ」それがさくの頭を支配していく。1pと17pページ目は同じ部屋のはずが、あまりにもの変わりように読者も驚愕。さくは独り言を繰り返しながらルーティンのように外に出ていくが、今の時刻は……。
さくが自覚しながら、欠けていくことをあらがえず、どんどん変わっていくストーリーに、読者からは「他人事ではないだけに、ある種の恐怖を感じざるを得ない」「切なくて泣きそうになった」と反響。「リアルさにズシンときた」「起こりえるから怖い」とそのリアルな描写も話題となっている。
誰もに起こりえる病の恐怖に共感を呼ぶ…作者・冬虫カイコさんインタビュー
――『欠ける月』の創作のきっかけをお教えください。
元々、いつか絶対に描きたいと思っていたテーマでした。
――「リアル」「他人事じゃない」というコメントが多く見られました。作品作りでリアルさを演出するために意識していることはございますか。
あまり作品の主題に関係のないディテール部分も下調べに時間をかけるようにしています。 今回は俳句サークルに少しだけ詳しくなりました。
――本作を読んだ多くの読者が「おばあちゃんとたくさん話しておこう」「明日は我が身」と自身の生活を見直していました。本作に込めた想いをお聞かせください。
私自身これは他人事ではない、いつか誰にでも起こりうることだし現実に起きていることだろうなあと思いながら描いていたので、読んでくださった方々にもそうやって身近に感じていただだけたのであれば幸いです。
――最初と最後を見比べて細かい描写に驚かれる読者の方も多くみられましたが、本作の作画におけるこだわりをお教えください。
ラストが夜中のシーンに向かって、冒頭の昼間のシーンから後半になるにつれてだんだん日が暮れていくような時間設定をしたのがひそかなこだわりです。1pと17pは対比を狙って全く同じコマ割りにしたのでよく見てもらえてうれしいです。
――今後の展望や目標をお教えください。
読み切りを描くのが好きでまだまだ描きたいこともたくさんあるので、とにかくいろんな人やいろんな背景を描き続けていきたいです。
――最後に作品を楽しみにしている読者やフォロワーの皆さんへメッセージをお願いいたします。
いつも読んでくださっている方も初めて読んでくださった方もありがとうございます。これからもたくさん漫画を描いていくので、また見ていただければと思います。