近年脚光を浴びている台湾エンタメ作品が、国内の動画配信サイトで気軽に視聴できるようになっている。特に大手動画配信サイト「Netflix」では、台湾での公開時期とほぼ変わらないタイミングで話題作が配信されることも多く、現地での盛り上がりを日本国内でもほぼリアルタイムで体感することができる。
本記事では「Netflix」にて独占配信されている話題の台湾映画作品を3本厳選してご紹介。台湾国内でトップの興行収入を記録し、数々の映画賞を受賞したメガヒット作を、この機会にぜひチェックしてほしい。
【1】芯のある女性の姿を繊細に描く『弱くて強い女たち』
この映画の舞台は台南。母親と3姉妹という女性を中心とした家族の物語だ。音信不通の父親が亡くなったという知らせを受けて久々に集まることになった姉妹たちは、そこで初めて父親の人生や死の現実に向き合うことになる。これまで知らなかった父親の一面に戸惑いながらも、それぞれの幸せを叶えようと葛藤する家族の姿を描いたヒューマンドラマだ。
2020年に台湾で公開された本作は、その年の興行成績トップを記録。主演を務めたチェン・シューファン(陳淑芳)が台湾の映画賞である「金馬奨」にて、台湾映画史上最高齢(81歳)で主演女優賞を受賞したことがメディアでも大きく報じられた。
夫に去られた妻、父親に見捨てられた娘、愛人、異母姉妹 ーー。
どの立場で観るかによって受け取り方は大きく変わる。社会の抑圧に悩まされながらも、なんとか家族を守ろうと葛藤した母親の姿に、娘としては「なぜ?」と思いたくなるようなこともあるだろう。しかし娘たちもまたそれぞれに問題を抱えており、幸せになるための道を模索している。
不条理ながら受け入れるしかない現実や、それでも続いていくそれぞれの人生。一見強いように見えるが、本当は孤独、そして、一見弱いように見えるが、本当は芯があり力強い。ガラスの上を歩くようなあまりにも繊細な登場人物たちの心情は、観る者たちの心にやさしく沁み入り、小さな勇気を与えるだろう。
行間で語る抑制の効いた作品ではあるが、明るく楽しいシーンも多い。タクシーの車内で歌うカラオケに始まり、ラストを飾るのもタクシーカラオケ。市場や葬儀のシーン、行き交う台湾語など、随所に散りばめられた台湾風情もぜひ満喫してほしい。
ちなみに英題は「Little Big Women」だが、これは「若草物語」の原作「Little Women」を意識したタイトルになっているのだとか。また日本でもおなじみの徐若瑄(ビビアン・スー)が三姉妹の次女を演じながら、製作総指揮、エンディング曲の歌唱を同時に務めており、彼女の多才ぶりにも驚くはずだ。
【2】チンピラのベタな純愛に泣ける!『君が最後の初恋 Man in Love』
続いて紹介するのは、2021年に台湾で劇場公開され、上映開始から10日足らずで興行収入が一億元(約4億7千万円)を突破、2021年の興行収入No.1を収めるメガヒットとなったラブロマンス『君が最後の初恋 Man in Love』だ。
父親の借金を背負った一人の女性と、その取り立てをするチンピラの純愛を描いた本作は、韓国映画『傷だらけのふたり』のリメイクだが、台湾のローカルな風景や黒社会などの文化背景が、登場人物の雰囲気や設定と見事にマッチしている。また台湾のラブコメ作品が得意とするコミカルな演出が効果的に使われていることもあって、オリジナル版以上に ”笑って泣けて、キュンとくる恋愛映画” として完成されているように感じた。
粗暴だが心優しく親切なチンピラを演じたのは、ロイ・チウ(邱澤)。かねてより恋愛ドラマに引っ張りだこのイケメン俳優だが、本作ではチンピラらしいファッションに身を包み、ボーリング場で愛の歌を熱唱している。なんともダサいのにキュート。そしてそんな彼に徐々に心を開いていくヒロインを演じたティファニー・シュー(許瑋甯)は、2022年に社会派ドラマ『ふたりの私』(Netflixで配信中)で主演を務めたり、日本のドラマ『魔女の条件』の台湾リメイクのヒロイン役にも抜擢されたりと、いま大注目の女優だ。
物語や役者陣もさることながら、この作品を推したい理由はもうひとつ。
実は、主演を務めた二人はその後、実生活で結婚を発表。もともとロイ・チウといえば、恋の噂が絶えないプレイボーイで有名だったが、本作の撮影を通じて出会ったティファニー・シューと見事にゴールインし、現在もSNSで二人の仲睦まじい様子をアップしている。劇中では切ないラストを迎える二人だが、現実世界では幸せな愛の物語が続いていると思うと、きっと胸がキュンとしてしまうはずだ。
【3】大人の心に効く、青春恋愛ロードムービー『青春18×2 君へと続く道』
最後に紹介するのは、2024年4月の劇場公開後、いちはやくNetflixで独占配信された日台合作映画『青春18×2 君へと続く道』。台湾南部のカラオケ店で働く高校生のジミーと、その店にやってきた日本人バックパッカーのアミのひと夏の恋を描いた本作は、台湾の人気俳優・シュー・グァンハン(許光漢)と清原果耶によるW主演、さらに余命10年などで知られる藤井道人監督がメガホンを取ったことも大きな話題となり、日本と台湾のみならず、アジア全域での大ヒットとなった。
18年前の甘酸っぱい恋に想いを馳せながら日本の各地を旅する36歳のジミーは、その旅の先々で、個性あふれる人々に出会う。そうして人の温かさに触れながら、大人になる過程で忘れてしまった大切なものを少しずつ思い出していく。いつか見てみたいと思っていた景色を目にしたり、幼い頃からの憧れの場所を訪れたりと、長い人生の中であと回しにしていたことを一つずつ達成していくその姿に、自分自身も「一度しかない人生を味わい尽くしたい」という気持ちが湧いてくるだろう。
旅の醍醐味を感じさせるこうした展開には、ロードームービーとしての魅力もしっかりと詰まっており、単なる恋愛青春映画の枠を超えた感動を呼んでいる。ジョセフ・チャン(張孝全)、道枝駿佑、黒木華、松重豊など、日台合作ならではの豪華なキャスティングも見逃せない。
18歳の不器用で可愛らしい姿と、その後の18年で落ち着いた大人に変化していく姿を見事に演じ分けたシュー・グァンハンは、本作のヒット以降、日本や韓国などにも活躍の場を広げており、日本の人気女性誌の表紙を飾るほどの人気ぶりを見せた。2025年以降も世間を賑わせること間違いなしのスター俳優を、ぜひ今からチェックしておいてほしい。
文/田中 伶
▶ほかの注目作もチェック! 台湾映画・ドラマ2024特集ページはこちら
講談社
発売日: 2024/05/02