携帯の中にあった知りたくなかった“真実”
その後の展開は、まるで彼が筋書きを用意していたかのように順調に進んでいった。彼はわたしを両親に引き合わせ、カニ料理を囲みながら一緒に記念撮影。彼の家族の前では完璧な婚約者を演じた。彼は毎日「愛している」と言ってくれた。その言葉は目線だけでも伝わり、何度も空気中に漂う。
それでも、なぜか次第にわたしたちの間には冷たい距離が生まれていった。彼の優しさも、わたしへの配慮も、どこか形式的で心が通い合っているとは言えなかった。そして、決意の日がやってきた。
彼は、出張中で数日不在だった。数ヶ月前、彼の襟に口紅の跡を見つけてからずっと疑念を抱えていた。彼を信じたい気持ちと、どうしても拭えない不安が胸を渦巻く。部屋に置かれた壊れた彼の携帯を手に取った。それは彼が数ヶ月前に「もう使えないし、処分する」と言っていたものだったが、なぜかまだ捨てられず放置されていた。
これを見れば、この関係にひとつの答えが出るかもしれないーー。私は修理屋に携帯を持ち込み、直してもらった。修理が終わり、画面がついた携帯を手にしたとき、私は手が震えているのに気づいた。躊躇しつつもパスワードを試すと、まさか解除された。
最初に目に飛び込んできたのは、写真フォルダに知らない女性たちとのディズニーランドやチームラボでのツーショットだった。ある程度予想していたとはいえ、胸の奥が氷のように冷たくなっていく。
彼のメッセージアプリにたどり着いたものの、最初はログインできなかった。しかし、パスワード再設定を試みると、再設定画面の秘密の質問は彼のことを熟知している私にはすぐに答えがわかった。そして、画面の中に飛び込んできたのは、数十人の女性たちとのやり取りだった。
メッセージの中身を読み進めると、友達として始まったもの、アプリで知り合ったもの、金銭のやり取りを伴うもの――さまざまな出会いで深い関係を持った女性がたくさん。さらにショックなのは、彼を彼氏だと思い込んでいる女性は、わたしだけではなかった。最も胸を締めつけられたのは、わたしが実家に帰省していた日に別の女性との宿泊記録で埋め尽くされていたことだった。
画面を閉じたあと、私は呆然として座り込んだ。 信じられない。信じたくない。でも、否応なしに目の前にある事実を叩きつけられる。 あの温かい笑顔も、優しい言葉も、すべてが偽物だったのかもしれない。彼がプロポーズしたのは、ほんの数週間前だ。それなのに。
わたしは彼に「この関係を続けるのはもう無理だ」と静かに告げた。こうして、プロポーズを受けても、結婚に至ることはなかった。彼は何も言わず、ただ深いため息をついただけだった。
彼の家を去る際、最後に見たのは、無言でわたしを見送る彼の姿だった。その瞳には一瞬だけ後悔の色が浮かんでいるように見えたが、結局のところ、わたしは彼の本心を知らないままだ。別れた後も数ヶ月の間に何度か顔を合わせる機会があり、また会えるかもしれないと思わせる雰囲気もあった。けれども、それ以上の関係に戻ることはなく、わたしたちはそれ以来、二度と会うことがなかった。
◉X(旧Twitter):https://x.com/_onodela
◉Instagram:https://www.instagram.com/_onodela